・・・政治家の不注意というべし。政治の気風が学問に伝染してなお広く他の部分に波及するときは、人間万事、政党をもって敵味方を作り、商売工業も政党中に籠絡せられて、はなはだしきは医学士が病者を診察するにも、寺僧または会席の主人が人に座を貸すにも、政派・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 今その不注意なる証を見んとならば、世間の事実において明らかに知るべきものあり。世の士君子、あるいは官途に就く者あり、あるいは商売に従事する者あり、あるいは旅行するものあり、あるいは転宅するものあり。その際に当たり、何らの箇条を枚挙して・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・畢竟婦人の罪とのみ言う可らず、社会の先達たる学者教育家の不深切と、政府の筋の無学不注意に由来することゝ知る可し。一 教育の進歩と共に婦人が身柄にあるまじきことを饒舌り、甚だしきは奇怪千万なる語を用いて平気なるは、浅見自から知らざるの罪に・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・虚子の句は沢山も見んのでよくわからぬが、商売に身が入って句が下手になったなどという悪口はもとより一座の滑稽話しに過ぎないとしてもとにかく一方に注意すれば他の一方に不注意になるという事は人間に免れぬ事であるから、その点については虚子も一応・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・「私どもの不注意からしばらく役目を欠かしましてお申し訳けございません。それにもかかわらず今晩はおめぐみによりまして不思議に助かりました。海の王様が沢山の尊敬をお伝えして呉れと申されました。それから海の底のひとでがお慈悲をねがいました。又・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ その恐しい様子に手の出し様のないお節は顔をそむけて自分の不注意から出来たこの事を悔む涙にむせんで居た。 長い間、あばれた栄蔵は疲れた様に次第にしずまった。 少しの砂糖水をのんだ後は、近頃に珍らしい大きないびきをかいて眠りに入っ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・彼も、自分としては下劣な心情の所有者になるかもしれないし、生活に不注意な者になるかもしれない。が、それは問題外だ。「彼は美徳を信じて居る。」云々。 この一章は、ヘンリー・ライクロフトが最も鋭鋒を現した部分と云えよう。 今日の私共がこ・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
出典:青空文庫