・・・ 深い、深い自己の意識、自分の来た処、これから行こうとする処、それ等を、不滅な人類の生存感にまで引あげて我々が人生を全き我が眼で眺めた時、果して世の中はこれほど塵っぽく騒々しくあらねばならないものだろうか。 極言すれば、理想を高唱す・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・批判の精神が人間精神の不滅の性能であることやその価値を承認することは、とりも直さず客観的観照の明々白々な光の下に自身の自我の転身の社会的文学的様相を隈なく曝すことになり、それは飽くまで主観的な出発点に立っている精神にとって決して愉快なことで・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ 棄てられた女は、さんざん苦しんだあげく、だんだん霊の不滅、輪廻転生の教えを美しいものと信じるようになり、霊交術にまで熱中しだす。そして、ギリシア神話のように、死んだ男は早ざきのつぼみを持つ紅梅に生れかわっているという幻をえがき、「心を・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 青春は人類の可能性の時期であり、どんなに肉体の年齢が重なろうと、その重みでかがみこんでしまわない人間精神の若さこそ、人類の不滅の可能につながっているのであるから、この社会で人間がもっている社会関係、人間の生きかたに密着している文学が、・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・ だからこそ、ヒューマニティーによる、理性の不屈従に、高貴な行動的意義があります。不滅の勝利があります。 二十世紀の現代においては、理性がいかに永続的に、且つ現実的に操作されうるかという能力にこそ、歴史の勝敗がかかっている。・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・自由だの、霊魂不滅だの、義務だのは存在しない。その無いものを有るかのように考えなくては、倫理は成り立たない。理想と云っているものはそれだ。法律の自由意志と云うものの存在しないのも、疾っくに分かっている。しかし自由意志があるかのように考えなく・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・哲学者は急に熱心になって霊魂不滅の信仰が迷妄に過ぎないこと、この迷妄を打破しなければ人間の幸福は得られないことを説いて彼を反駁する。彼は全能の造物主を恐れないのかときく。哲学者はこの世界が元子の離合集散に過ぎないこと、現世の享楽の前には何の・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫