・・・ところが昨年の秋、私は、その倉庫の中の衣服やら毛布やら書籍やらを少し整理して、不要のものは売り払い、入用と思われるものだけを持ち帰った。家へ持ち帰って、その大風呂敷包を家内の前で、ほどく時には、私も流石に平静でなかった。いくらか赤面していた・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・の出版を、よろこぶの心のあまり、ひどく、不要の出しゃばりをしたようである。許したまえ。悪い心で、したことではなかったのだから。許さぬと言われるなら、それに就いて、他日また、はっきり申しひらきいたします。 或るひとりの男の精進・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・ この項、これだけのことで、読者、不要の理窟を附さぬがよい。重大のこと 知ることは、最上のものにあらず。人智には限りありて、上は――氏より、下は――氏にいたるまで、すべて似たりよったりのものと知るべし。 重大のことは・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・前者には機械的な記憶などは全然不要であり、後者には方則も何もなく、ただ無条件にのみ込みさえすればよいように思われるかもしれないが、事実はいうまでもなくそう簡単ではない。 数学も実はやはり一種の語学のようなものである、いろいろなベグリッフ・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・ところが職業とか専門とかいうものは前申す通り自分の需用以上その方面に働いてそうしてその自分に不要な部分を挙げて他の使用に供するのが目的であるから、自己を本位にして云えば当初から不必要でもあり、厭でもある事を強いてやるという意味である。よく人・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・この要点は全体を明かにするにおいて功力があるのみならず、要点以外に気を散らす必要がなく、不要の部分をことごとく切り棄てる事もできるからして、読者から云えば注意力の経済になる。この要点を空間に配して云うと、沙翁は king と云う大きなものを・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・その虚実、要不要の論はしばらく擱き、我が日本国人が外国交際を重んじてこれを等閑に附せず、我が力のあらん限りを尽して、以て自国の体面を張らんとするの精神は誠に明白にして、その愛国の衷情、実際の事跡に現われたるものというべし。 然るに、我輩・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・バルザックに還れと叫ぶ人々が、バルザックへ戻る前に既にそれをかみこなす自分らの歯を我から不要のものとして抜きすて去っているとしたら、そもそも何の規準によってこの一箇の巨大な古典を摂取し得るであろう。畢竟バルザックは当時一風潮としてきざしはじ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 何だか彼んだか訳の分らない事を二色の金切声が叫びながら、ドッタンバッタンと云うすさまじさなので、水口で何かして居た女中達は皆足音をしのばせて垣根の隙――生垣だから不要心な位隙だらけになって居る――からのぞくと、これはこれはまあ何と云う・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・出版所の中でひっくるめて、いろいろの仕事がされているのでして、今さし当り、人手は不要な有様です。 すぐ『働く婦人』の事務のために働いていただくことはこういう次第で出来ませんが、お話の様子ではあなたは『働く婦人』を毎号お読みのようですから・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫