・・・まだ若く研究に劫の経ない行一は、その性質にも似ず、首尾不首尾の波に支配されるのだ。夜、寝つけない頭のなかで、信子がきっと取返しがつかなくなる思いに苦しんだ。それに屈服する。それが行一にはもう取返しのつかぬことに思えた。「バッタバッタバッ・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・「ところで若崎さん、御前細工というものは、こういう難儀なものなのに相違無いが、木彫その他の道において、御前細工に不首尾のあったことはかつて無い。徳川時代、諸大名の御前で細工事ご覧に入れた際、一度でも何の某があやまちをしてご不興を蒙ったな・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・この一と夏の海水浴の不首尾は実に人生そのものの不首尾不如意の縮図のごときものであった。 それから後にも家族連れの海水浴にはとかく色々の災難が附纏ったような気がする。そのうちにまた自分が病気をしてうっかり海水浴の出来ないようなからだになっ・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・ ほんま云えば、川窪はんへそな事云うて行かれんわなあ、父はん、 私が、不首尾な戻り様したのやから、あの奥はんもさぞ気まずう思うといでやろから…… でも此家へ来て間もなく、挨拶かたがた詫に行たら、どこぞへ行きなはるところやったが、・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫