・・・一寸手を延すだけの世話で、直ぐ埒が明く。皆打切らなかったと見えて、弾丸も其処に沢山転がっている。 さア、死ぬか――待ってみるか? 何を? 助かるのを? 死ぬのを? 敵が来て傷を負ったおれの足の皮剥に懸るを待ってみるのか? それよりも寧そ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・彼はこの種を蒔いたり植え替えたり縄を張ったり油粕までやって世話した甲斐もなく、一向に時が来ても葉や蔓ばかし馬鹿延びに延びて花の咲かない朝顔を余程皮肉な馬鹿者のようにも、またこれほど手入れしたその花の一つも見れずに追い立てられて行く自分の方が・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・そしてそれを機会にひとまず吉田も吉田の母も弟も、それまで外で家を持っていた吉田の兄の家の世話になることになり、その兄がそれまで住んでいた町から少し離れた田舎に、病人を住ますに都合のいい離れ家のあるいい家が見つかったのでそこへ引っ越したのがま・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・』『女房をサ、何もそんなに感心する事はなかろう、今度のようなちよっとした風邪でも独身者ならこそ商売もできないが女房がいれば世話もしてもらえる店で商売もできるというものだ、そうじゃアないか』と、もっともなる事を言われて、二十八歳の若者、こ・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・ 性交は夫婦でなくてもできるが、子どもを育てるということは人間のように愛が進化し、また子どもが一人前になるのに世話のやける境涯では、夫婦生活でなくては不都合だ。それが夫婦生活を固定させた大きな条件なのだから、したがって、夫婦愛は子どもを・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・上等兵の表情には、これまで、病院で世話になったことのないあかの他人であるような意地悪く冷酷なところがあった。 こういう態度の豹変は憲兵や警官にはあり勝ちなことだ。憲兵や警官のみならず、人間にはそういう頼りにならぬ一面が得てありがちなこと・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・は無いのですが、それらの塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が適当な位のものでして、先生は一人、先生を輔佐して塾中の雑事を整理して諸種の便宜を生徒等に受けさせる塾監みたような世話焼が二三人――それは即ち塾生中の先輩・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・が讐敵にもさせまじきはこのことと俊雄ようやく夢覚めて父へ詫び入り元のわが家へ立ち帰れば喜びこそすれ気振りにもうらまぬ母の慈愛厚く門際に寝ていたまぐれ犬までが尾をふるに俊雄はひたすら疇昔を悔いて出入りに世話をやかせぬ神妙さは遊ばぬ前日に三倍し・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・主婦というもののない私の家では、子供らの着物の世話まで下女に任せてある。このお徳は台所のほうから肥った笑顔を見せて、半分子供らの友だちのような、慣れ慣れしい口をきいた。「次郎ちゃん、いい家があって?」「だめ。」 次郎はがっかりし・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ ウイリイはうまや頭からおそわって、ていねいに王さまのお馬の世話をしました。じぶんの馬も大事にしました。そして、しばらくの間なにごともなく、暮していました。 ウイリイは厩のそばに、部屋をもらっていました。夕方仕事がすみますと、ウイリ・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
出典:青空文庫