・・・それは本稿の目的上、羅列を事とせずして、活きた倫理的問いを中軸として、一つのまとまりのある叙述をものしたく思ったからである。 最後に一言付すべきことは、生の問いをもってする倫理学の研究は実は倫理学によって終局しないものである。それは善・・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・たいていの花では子房が花の中央に君臨しているものと思っていたのに、この植物ではおしべが中軸にのさばっていてめしべのほうが片わきに寄生したようにくっついているのである。ところが、また別の茎を取って点検してみると、花が盛りを過ぎてすでに受胎を終・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ この御手洗の屋根の四本の柱の根元を見ると、土台のコンクリートから鉄金棒が突き出ていて、それが木の根の柱の中軸に掘込んだ穴にはまるようになっており、柱の根元を横に穿った穴にボルトを差込むとそれが土台の金具を貫通して、それで柱の浮上がるの・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・新シベリアの生産と文化の中軸だ。真夜中で〇・一五度では何とも仕方ない。車室の窓のブラインドをあげ、毛布にくるまってのぞいていたら次第に近づく市の電燈がチラチラ綺麗に見えた。 一寝いりして目がさめかけたらまだ列車は止っている。隣の車室へ誰・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・したがって、西欧の近代文学の中軸として発展してきた一個の社会人として自立した自我の観念も、日本ではからくも夏目漱石において、不具な頂点の形を示した。リアリズムの手法としては、志賀直哉のリアリズムが、洋画史におけるセザンヌの位置に似た存在を示・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ボストンだけが文化の中心ではないし、パリだけが文化の中軸をなしていると云えない。それぞれの国は、各地方に、独自的な伝統と特色とをゆたかにもちながら全体としてその国の人民の宝として十分評価されるだけの文化をもって来ている。それは、昔のヨーロッ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・質のよい熟練工、技術家、専門家としてきっちりソヴェト生産の中軸的活動者となっている。或る産業に永年従事するものの特別な気持。階級闘争の現実的な経験。五ヵ年計画実現に関連して、或る産業に従事する労働者の独特な生活に起った独特な社会的変化などは・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ この重大な時期に民主主義文学運動の中軸としての労働者階級としての文学は、小市民をふくむ一般勤労者の文学とどうちがい、どのような方向をもつべきかということが明瞭にされなければならなかった。ところが、文学の領野にも、戦禍はまざまざとしてい・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・人間のこの社会への誕生は偶然であるがやがてその存在の価値は必然にかわってゆくという意味ふかい歴史の発展へのかかわりを、女のひとは、娘から妻となり母となってゆくという生理の過程を中軸にして辿ってきていたと思える。愛の展開も従って本能的に行われ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・日本の民主主義革命そのものが、労働者階級を中軸として、農民及び市民層、民族資本家までをふくむ共同を必要としている現実は、民主的文学に多様性をもたらすと同時に、互の階級間の生きた諸関係についての理解を、欠くことのできないものにしている。人民が・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫