・・・その計画し、もしくは着手した事業を完成せず、中道にして廃するのを遺憾とするのもある。子孫の計がいまだならず、美田をいまだ買いえないで、その行く末を憂慮する愛着に出るのもあろう。あるいは単に臨終の苦痛を想像して、戦慄するのもあるかも知れぬ。・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ら其妻子・眷属に別れて独り死出の山、三途の川を漂泊い行く心細さを恐るるのもある、現世の歓楽・功名・権勢、扨は財産を打棄てねばならぬ残り惜しさの妄執に由るのもある、其計画し若くば着手せし事業を完成せず、中道にして廃するのを遺憾とするのもある、・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・に由らんといい、あるいは仏法に従わんといい、あるいは耶蘇教を用いんというものあれば、また一方にはこれを悦ばず、儒仏耶蘇、いずれにてもこれに偏するは不便なり、つまり自愛に溺れず、博愛に流れず、まさにその中道を得たる一種の徳教を作らんというもの・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・特に、世界とその一環としての日本の文学が、質的に大きい変転を行い、波瀾を経つつある最近の「十年間あまり、国文学研究の中道が、殆どすべて本文校訂とか稿本作成とか、考証とか、索引作成とかいう資料整理的の仕事それ自体を目的とする範囲を出なかったこ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫