・・・ 時間がなくていろいろなお話ができないのですけれども、民主的なものの一番根本は人間の生きている権利、そしてそれは私共は社会の生産に関与して生きているというその権利が主体なのです。そのほかわれわれが考えなければならないことは、今の憲法草案・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・名称も元のままですが、主体は曾禰氏が主です。ところがこの老博士は今年八十四五歳であり、君子であり品格をもった国宝的建築家でありますが、現実の社会事情からは些か霞の奥に在る。ために国男はじめ所員一同具体的な生活的な面で安心して居られず、という・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・現在のアメリカ人にとってきらいなことは、きらいなことだときめるだけですむかのように、それから先の追究をすてているところに、アメリカの明るさと同時に異様な主体性の没却を示している。 そして、巨大な現象をつかみながら、作家の主体的角度が消失・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・「自我」「主体」の確立の主張の上に絵どる段階から成長して来て、日本の社会現実のうちで自我を存在させ発展させるそのことのためにも、日本ではすべての市民に共通な基本的な人権の擁護が必要であることが把握されはじめた。世界ファシズムと戦争挑発に対す・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・この三年間に、反小林多喜二の慣用語として、主体性を云い、人民的民主主義の方向を抹殺して、個人を云い自我を云いたてた人々は、現在、その人々の目にもあきらかなように、反動的農民組合の分派が、自分たちを主体派とよび、労働組合の分裂工作が民主化同盟・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・同時に、それを主体的に云えば、一個の社会人・芸術家は、自分の理性がさし示す歴史の前進の方向、情熱がさし示す純潔なる芸術生活への献身を、ひるむことなくわが身をもって実現する当然の自由をもっているのだということを自覚すべき責任があることをも示し・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・となり、文芸院が概して大衆作家を主体としたのとちがって文芸懇話会はプロレタリア作家以外の純文学作家をも多数包括した。「文化の宝船に、文芸の珠玉を載せて、順風に金襴の帆を孕ませて行く。それが文芸懇話会の使命でありたい。楫をとるもの、艪を操るも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・当時云われた教養を高めよということは謂わばその作家魂の主体を失った人々が、教養でその空隙を埋めようと志した試みの一つであったが、既に教養が文学創造のための何かの足しになるためには必須な現実判断の力を我から否定している以上、この教養へのあがき・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・国内国外もつれ合う潮の流れの複雑さと、主体的に日本のインテリゲンツィアをこめる全人民に民主的感覚が成熟していないことのために、難航である。それだからと云って、民主的社会建設の方向を懐疑し、インテリゲンツィアが自身の歴史的運命の発展に躊躇する・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ 少くとも、この本に集められた小さい婦人たちの発言の特色は、彼女たちの存在が急速に、そして主体的に社会的になって来ている点だと云えると思う。だが、わたしには疑問もおこった。「私達は太陽だ」などは、こんにちの社会現象のあれこれを追究して、・・・ 宮本百合子 「小さい婦人たちの発言について」
出典:青空文庫