・・・能く能く考えて見ると人というものは、平時においては軽微の程度におけるローマンチシズムの主張者で、或者を批評したり要求するに自己の力以上のものを以てしている。 一体人間の心は自分以上のものを、渇仰する根本的の要求を持っている、今日よりは明・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・私は復古癖の人のように、徒らに言語の純粋性を主張して、強いて古き言語や語法によって今日の思想を言い表そうとするものに同意することはできない。無論、古語というものは我々の言語の源であり、我民族の成立と共に、我国語の言語的精神もそこに形成せられ・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・こうした人々の談話の中には、農民一流の頑迷さが主張づけられていた。否でも応でも、彼らは自己の迷信的恐怖と実在性とを、私に強制しようとするのであった。だが私は、別のちがった興味でもって、人々の話を面白く傾聴していた。日本の諸国にあるこの種の部・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・畢竟記者は婚姻契約の重きを知らず、随て婦人の権利を知らず、恰も之を男子手中の物として、要は唯服従の一事なるが故に、其服従の極、男子の婬乱獣行をも軽々に看過せしめんとして、苟も婦人の権利を主張せんとするものあれば、忽ち嫉妬の二字を持出して之を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
緒言 芭蕉新たに俳句界を開きしよりここに二百年、その間出づるところの俳人少からず。あるいは芭蕉を祖述し、あるいは檀林を主張し、あるいは別に門戸を開く。しかれどもその芭蕉を尊崇するに至りては衆口一斉に出づるがごとく、檀林等流派を異・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・この主張は、実に、人類の食物の半分を奪おうと企てるものである。換言すれば、この主張者たちは、世界人類の半分、則ち十億人を饑餓によって殺そうと計画するものではないか。今日いずれの国の法律を以てしても、殺人罪は一番重く罰せられる。間接ではあるけ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ことがなければプロレタリア文学は真の芸術であり得ないという片上伸の主張とそのためのたたかいを著者は、同情と批判をもって跡づけている。 この初期の二つの評論にはっきりあらわれているように階級の歴史的経験を、自身の実感としないではいられなか・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・マランダンはどこまでも自分の証拠をあげて主張した。かれらは一時間ばかりの間、言い争った。アウシュコルンは自分で願って身躰の検査を求めた。手帳らしきものも見いだされなかった。 ついに市長は大いに困ってその筋に上申して指揮を仰ぐのほかなしと・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
コンミニズム文学の主張によれば、文壇の総てのものは、マルキストにならねばならぬ、と云うのである。 彼らの文学的活動は、ブルジョア意識の総ての者を、マルキストたらしめんがための活動と、コンミニストをして、彼らの闘争と・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・その主張を一語でいうと、神儒仏の三者は同一の真理を示している、一心すなわち神すなわち道、三にして一、一にして三である、ということになるであろう。 この兼良が晩年に将軍義尚のために書いた『文明一統記』や『樵談治要』などは、相当に広く流布し・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫