・・・ 私が予め読者諸氏に、ことわって置く必要があると云うのは、これから、第三金時丸の、乗組員たちが、たといどんな風になって行くにしても、「第一、そんな船に乗りさえしなければよかったんじゃないか、お天陽様と、米の飯はどこにでもついて、まわるじ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・然るを勝氏は予め必敗を期し、その未だ実際に敗れざるに先んじて自から自家の大権を投棄し、ひたすら平和を買わんとて勉めたる者なれば、兵乱のために人を殺し財を散ずるの禍をば軽くしたりといえども、立国の要素たる瘠我慢の士風を傷うたるの責は免かるべか・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
人物の善悪を定めんには我に極美なかるべからず。小説の是非を評せんには我に定義なかる可らず。されば今書生気質の批評をせんにも予め主人の小説本義を御風聴して置かねばならず。本義などという者は到底面白きものならねば読むお方にも・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・その食物は豚肉を主としている、釈迦はこの豚肉の為に予め害したる胃腸を全く救うべからざるものにしたらしい。その為にとうとう八十一歳にしてクシナガラという処に寂滅したのである。仏教徒諸君、釈迦を見ならえ、釈迦の行為を模範とせよ。釈迦の相似形とな・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・吾々の世紀は十六世紀に対して、後から来る諸世紀がどういう点において十九世紀の野蛮性を見るべきであるかを予め知っているという重要な優越点を持っている」 文芸評論家としてのベリンスキーの生々とした精神の精髄がここに現れている。ベリンスキーと・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」
・・・また過誤のあった時、分疏をするために予め地をなして置くのでもない。これは私の性質と境遇とから生じた事実である。あるいはそれではギョオテに済むまいと誚められるかも知れない。しかしこれまで舞台に上されるファウストを日本語で書いた人もなく、またそ・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫