・・・彼は私が私の不明を恥じるだろうと予測していたのであろう。あるいは一歩進めて、鑑賞上における彼自身の優越を私に印象させようと思っていたのかも知れない。しかし彼の期待は二つとも無駄になった。彼の話を聞くと共に、ほとんど厳粛にも近い感情が私の全精・・・ 芥川竜之介 「沼地」
・・・を主張し、いかにそれを失敗してきたかを考えてみれば、だいたいにおいて我々の今後の方向が予測されぬでもない。 けだし、我々明治の青年が、まったくその父兄の手によって造りだされた明治新社会の完成のために有用な人物となるべく教育されてきた間に・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・何故ならこれに答えるためには、その場合の事情の十全な認識、行為のあらゆる結果の十全なる予測が必要であるが、かかる知見は神ならぬ人間には存しないからだ。かかる意味で、道徳上絶対に妥当な意志決定はありあたわぬ。しかしおよそ道徳とは何か、道徳的な・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ それでも事件の展開が簡単でなくて、一つの山から次の山へと移って行く道筋が容易には観客の予測を許さない、というだけのはたらきのあるのは、近ごろのこうしたアメリカ映画に普通である。はじめからおしまいの見すかされているような映画ばかり作る日・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しかるに逆転映画の世界で最初に静止している球が与えられている場合に、どうして、まただれが、その後の運動を少しでも予測しうるであろうか。可能な道は無限に多様であって、その中の一つを指定すべき与件は一つもないのである。 これと反対に、現世で・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・また若い学士が申出したある可能現象の実験的検査をその先生の大家が一言の下に叱り飛ばしたのが、それから数年の後に国外の学者によってその若い学士によって予測された現象の実在が証明されたというようなことも適にはあるようである。 しかるに、西鶴・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・その声を聞いてその次の月の天候を予測するようなことも、全く不可能ではないかもしれない。 同じように米相場や株式の高下の曲線を音に翻訳することもできなくはないはずである。 たとえば浅間温泉からながめた、日本アルプス連峰の横顔を「歌わせ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ 台風の襲来を未然に予知し、その進路とその勢力の消長とを今よりもより確実に予測するためには、どうしても太平洋上ならびに日本海上に若干の観測地点を必要とし、その上にまた大陸方面からオホツク海方面までも観測網を広げる必要があるように思われる・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・いろいろと予測し難い変化をすればこそ「天気」であろう。寒帯でも同様である。そこでは「昼夜」はあるが季節も天気もない。 温帯における季節の交代、天気の変化は人間の知恵を養成する。週期的あるいは非週期的に複雑な変化の相貌を現わす環境に適応す・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・しかし、現在のわれわれの知識でこれらの中のどれが永存しどれが死滅すべきかを予測することはなかなか容易なことではない。むしろ冷静な観察者となって自然の選択淘汰の手さばきを熟視するほかはないようにも思われるのである。 しかし、ここで一つ問題・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
出典:青空文庫