・・・ 私たちの著作を叢書の形に集めて、予約でそれを出版することは、これまでとても書肆によって企てられないではなかった。ある社で計画した今度の新しい叢書は著作者の顔触れも広く取り入れてあるもので、その中には私の先輩の名も見え、私の友だちの・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・たまたまレビュー式でない雑誌はあるが、そういうのは特別な関係の誌友類似の予約講読者のあるものに限るので、一般大衆を相手にするものは出来るだけレビュー式編輯法を採らなければ経営が困難だということである。誠に尤もな次第と思われる。 一体レビ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
明治三十二年に東京へ出て来たときに夏目先生の紹介ではじめて正岡子規の家へ遊びに行った。それとほとんど同時に『ホトトギス』という雑誌の予約購読者になったのであったが、あの頃の『ホトトギス』はあの頃の自分にとっては実にこの上も・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・いくつかの問題を、事実上私たちの発意と、集結された民主力とで、一歩ずつ解決に押しすすめてゆく、その一足が、私たちの眼路はるかに、広々とした民主日本、封建から解かれ、美しく頭をもたげた日本女性の立ち姿を予約しているのである。 民主戦線の結・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・本年末は島田、光井の方へ毛布二枚つづきお送りしたのみならず、自身のために『ロンドン・タイムス』の文芸付録とアメリカの『THE NATION』誌を一年予約しました。いいでしょう? 英語、ドイツ語は寿江子、フランス語はM子と分担してヨチヨチやっ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・刊行基金として、予約募集の仕事がはじめられた。その頃の金で全額五十円ぐらいであったろうか。予約募集は決して不成功ではなかったにかかわらず、刊行事務はちっとも進行しなかった。一九三三年と云えば、プロレタリア文化運動に集注破壊の向けられた年で、・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・私の友達はすでに帰国の準備をはじめ本を買い集めたり、予約出版の引つぎをたのむひとをさがしたりしているのであったが、私の心持にはそれが逆に影響して、益々モスクワの生活に引きつけられた。 だんだん眼の色が凝って燃えだすような視線で私が向いの・・・ 宮本百合子 「坂」
・・・個性の確立の道程さえも、こんなに複雑に二重の歴史性を貫き、質の変化を予約されなければならないものとなってきているのである。 プロレタリア文学運動のあったころ、同伴者作家という表現があった。プロレタリア文学の画然たる主流に流れ入ることはし・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 習俗のつよい圧力は、女が詩をつくる心をもって生れたという一事で既に、その人の人生に或る摩擦と波瀾とを予約するというのが私たちの生きる現実のありさまである。けれども、女一人を波瀾に導くその力そのものがとりもなおさずそのひとを立ちあがらせ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・結婚しようとする当事者たちの意志できめられるというのは、さわやかにはればれした人生の門出を予約するように感じられる。 民法の上にさっそうたる朝風が吹きわたるとして、さて、私たちの毎日の実際で、当事者同士の意志は、そんな単純明朗であり得る・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
出典:青空文庫