・・・それにしても、私共に会わないことが、どうして事態をよくして行くだろう。 会わない、見ない、と云うことが、何も私共が母娘であり、Aと自分とが夫妻であると云う事実に変更を与えるものではない。其那ことをし、故意に生活に強制した一点を作るより、・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・愛するエーヴ。事態がますます悪化しそうです。私たちは今か今かと動員令を待ち受けています。」 しかし戦争にならなければそちらへ行けるでしょうと約束した月曜には、独軍が宣戦の布告もせずに武力に訴えながらベルギーを通過してフランスに侵入した。・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・に参加して、戦時国債や貯金の誘説のほかに働き、その名声は、戦争の進行につれて益々被いがたくなって来た国内の生活崩壊の事態を、あれやこれやと彌縫するためにだけ利用されるという惨めな状態に陥ったのであった。 今日、人民全体が既成の「政治」に・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・白手袋をはめたエリザベスの両手は、ショックにたえている表情でかたく握りあわされ、おのずと倒れている同性に視線の注がれている彼女の顔じゅうには、そのような事態を遺憾とするまじめさがたたえられている。しかし、閲兵する王女としての足どりは乱れず、・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ 仮りに、今日の事態が、世界平和と社会主義防衛のためにソヴェトの赤色陸海軍が動員されなければならないことになったとする。プロレタリア作家は彼の武器と、鉛筆と手帳とをもって、防衛に立つであろう。 彼等は勇敢に行動するだろう。彼等は勇敢・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・どこでいつ行われようと無慙、野蛮でしかありようない現代のおそろしい兵器による戦争そのものがとりのぞかれようとしないならば、それにつづく事態ばかりをせめることは、歴史の発展のない、民族的自虐でさえある。歴史の現実にたいしてはっきりと目を開いて・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・明日の事がよく見とおせるだけ、事態は明瞭だとは云い難い。 しかし、健全な文化、明るく朗らかな生活ということは到るところに云われていて、私たちは心からそのような文化の誕生を期待し、歓迎し、その誕生のために努力を惜まない気持でいるのだと思う・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・デスデモーナの悲劇は、限りないオセロへの従順さ、献身が、はっきりした判断と意志とを欠いていたために、事態を悪い方へ悪い方へと発展させイヤゴーの奸智に成功を与えるモメントとなっている。こういうデスデモーナを思うとき、私たちの心には、自然さっき・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 昨今の日本では、数日うちに、事態がどしどしと推移してゆく。私たちも、それに馴れて来ている。しかし、この板橋での出来ごとや強制買上げ案、警視庁の意見の公表の調子などの間には、私たち人民が、ふむ、こんな風か、と読みすごしてはならない、極め・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・しかも大将は、うぬぼれのゆえに、この事態に気づかない。百人の中に四、五人の賢人があっても目にはつかない。いざという時には、この四、五人だけが役に立ち、平生忠義顔をしていた九十五人は影をかくしてしまう。家は滅亡のほかはないのである。 第二・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫