・・・私の町から三里ほど離れた五所川原という町の古い呉服屋の、番頭さんであったのだが、しじゅう私の家へやって来ては、何かと家の用事までしてくれていたようである。私の父は中畑さんを「そうもく」と呼んでいた。つまり、中畑さんには少しも色気が無くて、三・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・ 翌朝八時、青森に着き、すぐに奥羽線に乗りかえ、川部という駅でまた五所川原行の汽車に乗りかえて、もうその辺から列車の両側は林檎畑。ことしは林檎も豊作のようである。「まあ、綺麗。」妻は睡眠不足の少し充血した眼を見張った。「いちど、林檎・・・ 太宰治 「故郷」
叔母が五所川原にいるので、小さい頃よく五所川原へ遊びに行きました。旭座の舞台開きも見に行きました。小学校の三、四年生の頃だったと思います。たしか友右衛門だった筈です。梅の由兵衛に泣かされました。廻舞台を、その時、生れてはじ・・・ 太宰治 「五所川原」
この津軽へ来たのは、八月。それから、ひとつきほど経って、私は津軽のこの金木町から津軽鉄道で一時間ちかくかかって行き着ける五所川原という町に、酒と煙草を買いに出かけた。キンシを三十本ばかりと、清酒を一升、やっと見つけて、私は・・・ 太宰治 「雀」
・・・日本海のほうに抜け、つまり小牛田から陸羽線に乗りかえて山形県の新庄に出て、それから奥羽線に乗りかえて北上し、秋田を過ぎ東能代駅で下車し、そこから五能線に乗りかえ、謂わば、青森県の裏口からはいって行って五所川原駅で降りて、それからいよいよ津軽・・・ 太宰治 「たずねびと」
出典:青空文庫