・・・概してピアノや絃楽、交響楽を好んでききます。〔一九二二年六月〕 宮本百合子 「初めて蓄音器を聞いた時とすきなレコオド」
・・・を主題として交響楽を創り、ドラクロアのアトリエではユーゴオの小唄が口誦まれた。そして、ユーゴオ、ゴオチェ、メリメのような作家たちは、創作の間に絵を描いた。実に彼等は「すべての芸術において美しい色彩や情熱や文体を」ねらったのであった。 け・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・紐育の建物を見て感じするような色と線の、交響楽を感じる。けれども、無人な或は、土の中のような色をした黒坊の母子が、放牧された牛などに混って、ぽつんと、野の中に立って居る様子は、非常に物淋しい心持がする。 にぎやかな色、あかるい空、しかし・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・東京の裏街で昔の江戸の匂いを嗅これらの郷土の風景と住民と芸術との一切が、ここにはあたかも交響楽に取り入れられた数知れぬ音のようにおのおのその所を得、おのおのその微妙な響きを立てているのである。 木下はこれらの物象を描くに当たって、その物・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・そうしてそれがハッキリと現われて来れば、雑然としていたものはおのおのその所を得て、一つの独特な交響楽を造り出すのであります。しかしそれは何人といえども予見し得るものではありません。特に青春の時期にある当人にとっては、それは全然見当のつかない・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・従ってこの集まりは友情の交響楽のようなふうにもなっていたのである。漱石とおのれとの直接の人格的交渉を欲した人は、この集まりでは不満足であったかもしれない。寺田寅彦などは、別の日に一人だけで漱石に逢っていたようである。少なくとも私が顔を出すよ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫