・・・日本独特のダラダララジオから、こういう声が響き、外ならぬアナウンサアが、こういう人間的感動をもって、彼等も一専門家として享受するようになった解放の息吹に胸を高鳴らしているという事実は、深くわたしの心を動かしたのであった。そして、我々日本人は・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・さ程深くもなかった交が絶えてから、もう久しくなっているが、僕はあの人の飽くまで穏健な、目前に提供せられる受用を、程好く享受していると云う風の生活を、今でも羨ましく思っている。蔀君は下町の若旦那の中で、最も聡明な一人であったと云って好かろう。・・・ 森鴎外 「百物語」
独断 芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従って個性を異にするわれわれの感覚的享受もまた、各個の感性的直感の相違によりてなお一段と独断的なものである。それ故に文学上に於ける感覚・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫