・・・が、離れたと思うと落ちもせずに、不思議にも昼間の中空へ、まるで操り人形のように、ちゃんと立止ったではありませんか?「どうも難有うございます。おかげ様で私も一人前の仙人になれました。」 権助は叮嚀に御時宜をすると、静かに青空を踏みなが・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・しかしいちばんおもしろかったのはダアク一座の操り人形である。その中でもまたおもしろかったのは道化た西洋の無頼漢が二人、化けもの屋敷に泊まる場面である。彼らの一人は相手の名前をいつもカリフラと称していた。僕はいまだに花キャベツを食うたびに必ず・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・丁度活人形のように、器械的に動いているのである。新しい、これまで知らなかった苦悩のために、全身が引き裂かれるようである。 どうも何物をか忘れたような心持がする。一番重大な事、一番恐ろしかった事を忘れたのを、思い出さなくてはならないような・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・で、この次に探偵小説の「活人形」というのがあり、「聾の一心」というのがある。「聾の一心」は博文館の「春夏秋冬」という四季に一冊の冬に出た。そうしてその次に「鐘声夜半録」となり、「義血侠血」となり、「予備兵」となり、「夜行巡査」となる順序であ・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・と、機械があって人形の腹の中で聞えるような、顔には似ない高慢さ。 女房は打笑みつつ、向直って顔を見た。「ほほほ、いうことだけ聞いていると、三ちゃんは、大層強そうだけれど、その実意気地なしッたらないんだもの、何よ、あれは?」「あれ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ おとよは人形のようになってだまってる。「おとよ、異存はねいだの。なに結構至極な所だからきめてしまってもよいと思ったけど、お前はむずかしやだからな、こうして念を押すのだ。異存はないだろう」 まだおとよは黙ってる。父もようやく娘の・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・この画房は椿岳の亡い後は寒月が禅を談じ俳諧に遊び泥画を描き人形を捻る工房となっていた。椿岳の伝統を破った飄逸な画を鑑賞するものは先ずこの旧棲を訪うて、画房や前栽に漾う一種異様な蕭散の気分に浸らなければその画を身読する事は出来ないが、今ではバ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ダアクの操り人形然と妙な内鰐の足どりでシャナリシャナリと蓮歩を運ぶものもあったが、中には今よりもハイカラな風をして、その頃流行った横乗りで夫婦轡を駢べて行くものもあった。このエキゾチックな貴族臭い雰囲気に浸りながら霞ガ関を下りると、その頃練・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ そのとき、のぶ子は、お人形の着物をきかえさせて、遊んでいましたが、それを手放して、すぐにお母さまのそばへやってきました。「わたしをかわいがってくださったお姉さんから、送ってきたのですか?」と、のぶ子はいいました。「ああ、そうだ・・・ 小川未明 「青い花の香り」
・・・「じゃ、人形を送ってください。」と、信吉はいいました。「人形? 人形とはおもしろい。どんな人形がいいかな。」 博士は、眼鏡の中の目を細くしながら、「君には、埴輪がいいだろう。東京へ帰ったら、一ついい模型をさがしてあげましょう・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
出典:青空文庫