・・・あれであなたから都会人の感傷性とをマイナスすれば当然ソシアリストになる人柄です……と云うと胸が悪くなりますか。」 女の掠があった時代の書簡であるから、胸が悪くなる云々の言葉は今日にあっては、その時代の背景の前に解釈されなければなるまい。・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・のシュトラウス夫人では、阿蘭とはちがった、小川のような女心の可憐なかしこさ、しおらしい忍耐の閃く姿を描き出そうとしているのだが、その際、自分の持っている情感の深さの底をついた演技の力で、そういう人柄の味を出そうとせず、その手前で、いって見れ・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・こまかいさまざまの辛苦が、大町さんの誠実な人柄のうちにうけいれられ、こなされ、選択され、方向をととのえ、明日の日本のよりよい生活の建設のために献身する女性として、十分の厚みと、暖かさと、がんばりとなって来ている。人柄のよさというなかに、大町・・・ 宮本百合子 「大町米子さんのこと」
・・・彼女が、上成績で学位をとったことを、これから安楽な奥さん生活を営むためにより有利な条件として利用しようとでもする俗っぽい性根であったなら、決してピエール・キュリーのような天才的な、創意にみちた科学者の人柄と学問の立派さを理解することは出来な・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ カールのそのようなはっきり良心にしたがって生きる人柄と人生に対する態度とは、誰でも真似られるという種類のものでなかった。このカールの生き方は、妻であったケーテの家の伝統とも深い精神上のつながりを持ったものであった。ケーテの父はユリウス・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ 本間教子は、友代の素朴な熱心な活動的な天稟のままに気稟の側から全幕を演じ、この幕もそのようなものとして自然に演じているのだけれど、作者としては、友代のそういう自然発生の活動性、積極的な人柄を、周囲との関係でどう考えて見ているのだろうか・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・事務的に科学的にものごとを処理する人柄よりも、ワッハッハという笑いかたで解決する東洋古風型であると云われる。 トルーマン大統領がこんどの選挙に勝利したについて、いくつかの大新聞でトルーマン個人の人柄が、新しくとりあげられている。正直だと・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・というあだ名で呼ぶような人柄であった。漱石は、その人をすかなかった。親類でも、いやな奴はいやな奴として表現する。それが漱石であった。 漱石が死去して、門人たちは出来るだけこの文学者の趣向に合った墓をこしらえてあげたく思った。ところが、ア・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・他人と比較されることのない風変りな日常習慣のうちで、人柄のある聰明さにかかわらず奇矯な癖をもっている天皇の動作、きいた風な宮のとりなし。かしこまってそこに連っている歌人・文学者たち一人一人の経歴が文学史的に細叙されているにつけ、つつしんでい・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・安穏寺の住職は東京で新しい教育を受けた、物分りの好い人なので、佐野さんの人柄を見て、うるさく品行を非難するような事をせずに、「君は僧侶になる柄の人ではないから、今のうちに廃し給え」と云って、寺を何がなしに逐い出してしまった。そこで佐野さんは・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫