・・・その意味からいうと、美々しい女や華奢な男が、天地神明を忘れて、当面の春色に酔って、優越な都会人種をもって任ずる様や、あるいは天下をわがもの顔に得意にふるまうのが羨ましいのです。そうかと云ってこの人造世界に向って猪進する勇気は無論ないです。年・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・ 余が現在の頭を支配し余が将来の仕事に影響するものは残念ながら、わが祖先のもたらした過去でなくって、かえって異人種の海の向うから持って来てくれた思想である。一日余は余の書斎に坐って、四方に並べてある書棚を見渡して、その中に詰まっている金・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・西洋人と東洋人とを比較すると、概してみな我々東洋人は、非社交的な瞑想人種に出来上ってる。孤独癖ということは、一般的には東洋人の気質であるかも知れないのだ。深山の中に唯一人で住んでる仙人なんていうものは、おそらく西洋人の知らない東洋の理念であ・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
『西洋事情外篇』の初巻にいえることあり。「人もしその天与の才力を活用するにあたりて、心身の自由を得ざれば、才力ともに用をなさず。ゆえに世界中、なんらの国を論ぜず、なんらの人種たるを問わず、人々自からその身体を自由にするは天道・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・トルーマンが政策として、平和のための強国間の協力、アメリカの公務員法案であるタフト・ハートレー法の撤廃、物価の引下げ、人種的差別の撤廃その他を主張して当選したとき、日本では全人民の生活を破壊したさきの侵略戦争共同謀議者二十五名の判決公判が開・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・亀戸事件などは、人種的偏見と軍人・右翼の暴力に対する心からの憎悪をめざまさした。一九一八年ごろ日本におけるアイヌ民族の歴史的な悲劇に関心をひかれその春から秋急にアメリカへ立つまで北海道のアイヌ部落をめぐり暮した作者にとって公然と行われた朝鮮・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・生命の否定・人格無視・人種間の偏見を根幹とした軍事権力の支配とその教育のもとで、どうして若い幾千・幾万のこころが、個々の人間の尊厳や自我と社会現実との関係をつかむことが出来よう。 そういう意味で、一九四五年以後日本の若い精神をとらえた自・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・同時に、一人の子供をピオニイルにしようとし、なし得たことによって得た経験が、亀のチャーリーの心持をプロレタリアとして、またアメリカ帝国主義の下で有色人種労働者として二重の搾取と抑圧とに闘っている日本人移民労働者としてのチャーリーの心持をどの・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・そういう風に、どの人種にも美しいところがある。それを見つける人の目次第で美しいところがあると信じているロダンは、この間から花子という日本の女が varitワリエテエ に出ているということを聞いて、それを連れて来て見せてくれるように、伝を求め・・・ 森鴎外 「花子」
このデネマルクという国は実に美しい。言語には晴々しい北国の音響があって、異様に聞える。人種も異様である。驚く程純血で、髪の毛は苧のような色か、または黄金色に光り、肌は雪のように白く、体は鞭のようにすらりとしている。それに海・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫