・・・旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の料に売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのを・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・音も、形も馴染のものだが、仏具だから、俗家の小県は幼いいたずら時にもまだ持って見たことがない。手頃なのは大抵想像は付くけれども、かこみほとんど二尺、これだけの大きさだと、どのくらい重量があろうか。普通は、本堂に、香華の花と、香の匂と明滅する・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・だが、この寺内の淡島堂は神仏混交の遺物であって、仏具を飾って僧侶がお勤めをしていたから、椿岳もまた頭を剃円めて法体し、本然と名を改めて暫らくは淡島様のお守をしていた。 この淡島堂のお堂守時代が椿岳本来の面目を思う存分に発揮したので、奇名・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・笈埃随筆では「この地は神跡だから仏具を忌むので、それで鉦や鈴は響かぬ」という説に対し、そんなばかな事はないと抗弁し「それならば念仏や題目を唱えても反響しないはずだのに、反響するではないか」などという議論があり、結局五行説か何かへ持って行・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 片側には仏具を商う店舗、右は寺々の高い石垣、その石垣を覆うて一面こまかい蔦が密生している。狭い特色ある裏町をずっと興福寺の方へ行って見た。もう夕頃で、どの寺の門扉も鎖されている。ところどころ、左右から相逼る寺領の白い築地の間に、やっと・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫