・・・ こんな気取りのない調子で、いろいろ複雑な生活の観察も書かれたらルポルタージュとしてよいものが出来るだろうと思いました。 仕事場書き抜き 藤川睿子 地方の町で洋服仕立屋をやっている娘の生活やその気持が出ていると思います。しかし・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・「マリイの仕事場」と三つの小説が翻訳されたフランスの婦人作家マルグリット・オオドゥウの生活と作品なども、知性というものについて考えさせる多くのものをもっている。 オオドゥウは中部フランスの寒村に生れた孤児であった。育児院で育てられて、十・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・楽しみの場所であり、真剣な仕事場でもある。――つまりわれわれの建設の両面がここにあるわけですね」 もう半月ばかりすると、この演劇サークル上演の芝居が見られるのだそうだ。ドイツの新式な電気照明装置が舞台についている。 元の廊下をゆくと・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・土蔵を請負った仕事場に行くところなのであったが、ずっと後の方で、「おーい」と呼ぶ女の声がした。落葉を鳴らして行くとまた、「おーい」と聞える。歩いているのは石川ぎりであった。右手は手入れよく刈込まれた要の生垣で、縁側の真赤な小・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ 保育所の界隈の街の様子、往来に溢れている生活、それから家庭の中へ、親たちの仕事場のまわりへまでカメラが動いて行った深さは、よかった。 こういう縦の追求は「保姆」に非常に生活的な奥ゆきを与え、描写そのものがみるものにたくさんの人間生・・・ 宮本百合子 「「保姆」の印象」
・・・彼が働いている仕事場は偶然、ニージニの職人組合の長老、染物工場主カシーリンの隣りである。 或る夏のことであった。カシーリンの妻アクリーナが娘のワルワーラと一緒に庭で何心なく夷苺をとっていると、隣家との境の塀をやすやすのり踰えて一人の逞し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そこは小さな銅器工の仕事場であった。そこには異様に青い眼をもった縮毛の男がいた。ゴーリキイは、社会の下積の者の炯眼で、一目でこれが真実の労働者ではないことを観破したのであった。 この端緒から、当時のカザンに於ける急進的な学生、インテリゲ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・二十歳の時は一人前の家具師で、その仕事場が祖父の家とならんでいる。 ある日、祖母さんのアクリーナが娘のワルワーラと庭へ出て木苺をあつめていると、やすやすと隣から塀をのり越えてたくましい立派なマクシムが、髪を皮紐でしばった仕事姿のまま庭へ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ この製図工見習もものにならず、ゴーリキイはその後汽船につとめ、日本でいえば仏師屋のような聖像作りの仕事場で働き、人夫頭となり、ニージュニの市で毎年開かれる定期市の芝居小屋で馬の足までつとめた。 彼のまわりはどっちを見ても無智と当て・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫