・・・―― 以上が、その短篇小説の冒頭の文章であって、それから、ささやかな事件が、わずかに展開するという仕組みになっていたのであるが、それは、もとよりたわいの無い作品であった事は前にも述べた。私の愛着は、その作品に対してよりも、その作中の家族・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・それのみならず自分はこの映画いったいの仕組みの上からもいっさいの理屈をなくした心持ち気持ちのコンティニュイティとしての一種の俳諧を感じる。これは「パリの屋根の下」でも「百万両」でも感じたものであるが、この「自由をわれらに」でいっそうそう思わ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ ゲーブルの役の博徒の親分が二人も人を殺すのにそれが観客にはそれほどに悪逆無道の行為とは思われないような仕組みになっている。二度目の殺人など、洗面場で手を洗ってその手をふくハンケチの中からピストルの弾を乱発させるという卑怯千万な行為であ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ その他の曲にはなかなか複雑な仕組みのものもあったが、たとえば大小の弦楽器が多くは大小の曲線の曲線的運動で現わされ真鍮管楽器が短い直線の自身に直角な衝動的運動で現わされたり、太鼓の音が画面をいっさんに駆け抜ける扇形の放射線で現わされたり・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・と少しばかりちがう点は、何かしら一つの物を隠しておいて、それを捜し出すためにいろいろの実験を行なう、そうして読者を助手にしていろいろと実験を進めて行って最後に、その隠したものに尋ねあてて見せる、という仕組みのものである。宝捜しの案内記のよう・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・日本の芝居の仕組は支離滅裂である。馬鹿馬鹿しい。結構とか性格とか云う点からあれを見たならば抱腹するのが多いだろう。しかし幕に変化がある。出来事が走馬灯のごとく人を驚かして続々出る。ここだけを面白がって、そのほかを忘れておればやはり幾分の興味・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・一、旧藩地に私立の学校を設るは余輩の多年企望するところにして、すでに中津にも旧知事の分禄と旧官員の周旋とによりて一校を立て、その仕組、もとより貧小なれども、今日までの成跡を以て見れば未だ失望の箇条もなく、先ず費したる財と労とに報る丈けの・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・たとえば、大工が普請するとき、柱の順番を附くるに、梁間の方、三尺毎にいろはの印を付け、桁行の方、三尺毎に一二三を記し、いの三番、ろの八番などいうて、普請の仕組もできるものなり。大工のみにかぎらず、無尽講のくじ、寄せ芝居の桟敷、下足番の木札等・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・既に社会を成すときは、朋友の関係あり、老少の関係あり、また社会の群集を始末するには政府なかるべからざるが故に、政府と人民との関係を生じ、その仕組みには君臣の分を定むるもあり、あるいは君臣の名なきもあれども、つまり治むる者と治めらるる者との関・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・我が輩の所見にては我が国教育の仕組はまったくこの旨に違えりといわざるをえず。 試に今日女子の教育を視よ、都鄙一般に流行して、その流行の極、しきりに新奇を好み、山村水落に女子英語学校ありて、生徒の数、常に幾十人ありなどいえるは毎度伝聞する・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
出典:青空文庫