・・・だが、金さんの身になりゃ年寄りでも附けとかなきゃ心配だろうよ、何しろ自分は始終留守で、若い女房を独り置いとくのだから……なあお光、お前にしたって何だろう、亭主は年中家にいず、それで月々仕送りは来て、毎日遊んで食って寝るのが為事としたら、ちょ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・弟の新次は満洲へ、妹のユキノと、それからその下にもう一人できた腹違いの妹は二人とも嫁づいていて、その三人の仕送りが頼りの父の暮しだと判ると、私はこの父といっしょに住んで孝行しようと思った。 父は私の躯についている薬の匂いをいやがったので・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 三年経てば、妹の道子は東京の女子専門学校を卒業する、乾いた雑布を絞るような学資の仕送りの苦しさも、三年の辛抱で済むのだと、喜美子は自分に言いきかせるのであった。 両親をはやく失って、ほかに身寄りもなく、姉妹二人切りの淋しい暮しだっ・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・費用は蝶子がヤトナで稼いで仕送りした。二階借りするのも不経済だったから、蝶子は種吉の所で寝泊りした。種吉へは飯代を渡すことにしたのだが、種吉は水臭いといって受取らなかった。仕送りに追われていることを知っていたのだ。 蝶子が親の所へ戻って・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・その代り俺の方で惣治からの仕送りを断るから、それでお前は別に生計を立てることにしたがいいだろう。とにかくいっしょにいるという考えはよくない」 気のいい老父は、よかれ悪かれ三人の父親である耕吉の、泣いて弁解めいたことを言ってるのに哀れを催・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 岩波書店主茂雄君のお母さんは信濃の田舎で田畑を耕し岩波君の学資を仕送りした。たまに上京したとき岩波君がせめて東京見物させようと思っても、用事がすむとさっさと帰郷してしまった。息子を勉強させたいばかりに働いていたのだ。そして岩波君が志操・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 養生園以来、蔭ながら直次を通してずっと国から仕送りを続けていた小山の養子もそれを聞いて上京したが、おげんの臨終には間に合わなかった。おげんは根岸の病院の別室で、唯一人死んで行った。 まだ親戚は誰も集まって来なかった。三年の間おげん・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・月々、田舎から充分の仕送りがあるので、四畳半と六畳と八畳の、ひとり者としては、稍や大きすぎるくらいの家を借りて、毎晩さわいでいる。もっとも、騒ぐのは、男爵自身ではなかった。訪問客が多いのである。実に多い。男爵と同じように、何もしないで、もっ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・「恥かしいことでしょうけれど、私は、女の親元からの仕送りで生活していたのです。それがこんなになって。」 せかせか言いつづける青扇の態度に、一刻もはやく客を追いかえそうとしている気がまえを見てとった。僕はわざわざ袂から煙草をとりだし、・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ あの、笹島先生がこの家へあらわれる迄はそれでも、奥さまの交際は、ご主人の御親戚とか奥さまの身内とかいうお方たちに限られ、ご主人が南洋の島においでになった後でも、生活のほうは、奥さまのお里から充分の仕送りもあって、わりに気楽で、物静かな、・・・ 太宰治 「饗応夫人」
出典:青空文庫