・・・で、私を何所へ遣ったものでしょうと家でもって先生に伺うと、御茶の水の師範学校付属小学校に入るが宜かろうというので、それへ入学させられました。其頃は小学校は上等が一級から八級まで、下等が一級から八級までという事に分たれて居ましたが、私は試験を・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・それほどにして造りあげた帽子も、服も、付属品いっさいも、わずか二月ほどの役にしか立たないとを知った時に私も驚いた。「串談じゃないぜ。あの上着は十八円もかかってるよ。そんなら初めから洋服なぞを造らなければいいんだ。」 日ごろ父一人をた・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・「既に金沢の方で、学校の図書室を預って、多少その方の経験もあるが、何となく僕の趣味に適するんだね――あの議院に附属した大な図書館でもあると、一つ行って見たいと思うんだが――」 原は口髭を捻りながら笑った。 茶店の片隅には四五人の・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・ 二人の百姓は、町へ出て物を売った帰りと見えて、停車場に附属している料理店に坐り込んで祝杯を挙げている。 そこで女二人だけ黙って並んで歩き出した。女房の方が道案内をする。その道筋は軌道を越して野原の方へ這入り込む。この道は暗緑色の草・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 一八九六年、六月のなかば、ロンドン博物館附属動物園の事務所に、日本猿の遁走が報ぜられた。行方が知れぬのである。しかも、一匹でなかった。二匹である。 太宰治 「猿ヶ島」
・・・ 彼は悠然と腰から煙草入れを取り出し、そうして、その煙草入れに附属した巾著の中から、ホクチのはいっている小箱だの火打石だのを出し、カチカチやって煙管に火をつけようとするのだが、なかなかつかない。「煙草は、ここにたくさんあるからこれを・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・新調するとなると、同時に靴もシャツもその他いろいろの附属品が必要らしいから百円以上は、どうしてもかかるだろうと思われる。私は、衣食住に於いては吝嗇なので、百円以上も投じて洋装を整えるくらいなら、いっそわが身を断崖から怒濤めがけて投じたほうが・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・の移動のモンタージュ的手法はすなわち付け句の付け方であっていわゆる、においとか響きとか位とかおもかげとかいう東洋的な暗示的な言葉で現わされているのであるが、これらは畢竟いずれも二つの連接句のおのおのに付属した二つの潜在的心像がいかなる形にお・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・から既に地震学に興味をもっていたが、大震災の惨害を体験した動機から、地震に対する特殊の研究機関の必要を痛感し、時の総長古在由直氏に進言し、その後援の下に懸命の努力をもって奔走した結果、遂に東京帝国大学附属地震研究所の設立を見るに到った。爾来・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ こおろぎやおけらのような虫の食道には横道にそのうのようなものが付属しているが、食道直下には「咀嚼胃」と名づける袋があってその内側にキチン質でできた歯のようなものが数列縦に並んでいる。この「歯」で食物をつッつきまぜ返して消化液をほどよく・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫