・・・ 附記 わたしの甥はレムブラントの肖像画を買うことを夢みている。しかし彼の小遣いを十円貰うことは夢みていない。これも十円の小遣いは余りに真実の幸福に溢れすぎているからである。 暴力 人生は常に複雑である。複雑なる人生・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・自分は最後にこの二篇の蕪雑な印象記を井川恭氏に献じて自分が同氏に負っている感謝をわずかでも表したいと思うことを附記しておく 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・幾多の諸君が、熱心に執筆の労をとってくださったのは、特に付記して、前後六百枚のはがきの、このために費されたのが、けっして偶然でないということを表したいと思う。 その翌々日の午後、義捐金の一部をさいてあがなった、四百余の猿股を罹災民諸・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・ 第一、俺は見覚えの盆踊りの身振りをしながら、時々独房の中で歌い出したものだ――独房よいとオこ、誰で――もオおいで、ドッコイショ………………附記 田口の話はまだ/\沢山ある。これはそのホンの一部だ。私は又別な・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・と巻末に附記して在る。私が、それを知っていると面白いのであるが、知る筈がない。君だって知るまい。笑っちゃいけない。 不思議なのは、そんなことに在るのでは無い。不思議は、作品の中に在るのである。私は、これから六回、このわずか十三ページの小・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 最後に、末筆で失礼であるが、私は、学生時代、先生にひどいお世話になったことを、附記しておかねばならぬ。そうしてそれは、いつも、私の遠い悲しい思い出になっている。 太宰治 「豊島與志雄著『高尾ざんげ』解説」
・・・ 四 或る雑誌の座談会の速記録を読んでいたら、志賀直哉というのが、妙に私の悪口を言っていたので、さすがにむっとなり、この雑誌の先月号の小論に、附記みたいにして、こちらも大いに口汚なく言い返してやったが、あれだけで・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 附記 この時うつした写真を、あとで記者が持って来てくれた。笑い合っている写真と、それからもう一枚は、私が浮浪児たちの前にしゃがんで、ひとりの浮浪児の足をつかんでいる甚だ妙なポーズの写真であった。もしこれが後日、何か雑誌にで・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・あとで、いざこざの起らぬよう、それだけを附記する。 かきならす。おとをだに聞かば。このさとに。わがすむことを。きみや知るらむ。 太宰治 「盲人独笑」
・・・ 附記。これは、半ば以上、私の本の、広告のために書いた。私、昭和十一年よりは、稿料、全く無しか、さもなくば、小説一枚五円、その他のくさぐさの文章一枚三円ときめた。 今年正月号には、私の血一滴まじって居るとさえ思わせたる編輯者・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫