若い蘇峰の『国民之友』が思想壇の檜舞台として今の『中央公論』や『改造』よりも重視された頃、春秋二李の特別附録は当時の大家の顔見世狂言として盛んに評判されたもんだ。その第一回は美妙の裸蝴蝶で大分前受けがしたが、第二回の『於母影』は珠玉を・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・部屋のなかには新聞の付録のようなものが襖の破れの上に貼ってあるのなどが見えた。 それは彼が休暇に田舎へ帰っていたある朝の記憶であった。彼はそのとき自分が危く涙を落としそうになったのを覚えていた。そして今も彼はその記憶を心の底に蘇らせなが・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・それから国民の友の附録に、『宿魂鏡』という小説を寄稿した事があったが、あれは自分で非常に不出来だったと云って、透谷の透の字を桃という字に換えて、公けにしようかと私に話した位であった。あの作は透谷君の得意の作では無論無かったと思うが、でも私に・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・しかも死後の名声という附録つきです。傑作をひとつ書くことなのさ。これですよ。」 僕は彼の雄弁のかげに、なにかまたてれかくしの意図を嗅いだ。果して、勝手口から、あの少女でもない、色のあさぐろい、日本髪を結った痩せがたの見知らぬ女のひとがこ・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・講談倶楽部の新年附録、全国長者番附を見たが、僕の家も、君の家も、きれいに姿を消して居る。いやだね。君の家が、百五十万、僕のが百十万。去年までは確かにその辺だった。毎年、僕は、あれを覗いて、親爺が金ない金ない、と言っても安心していたのだが、こ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ただ、時々映画で予期以外の付録として見せられることはあるが、今までこの競争に対して特別の興味をよびさまされることはついぞなかったようである。しかし、近ごろ見たカルネラ対ベーアの試合だけは実におもしろいと思った。自分は拳闘については全くの素人・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
十余年前に小泉八雲の小品集「心」を読んだことがある。その中で今日までいちばん深い印象の残っているのはこの書の付録として巻末に加えられた「三つの民謡」のうちの「小栗判官のバラード」であった。日本人の中の特殊な一群の民族によっ・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・を大綜合雑誌が別冊附録としたようなジャーナリズムの気風についても見のがしていない。文学とそれらの著述の本質が全くちがうものであることを、文学者としての良心と責任とにおいて明かにしようとしている。このような事実も、今日のわたしたちのように幾種・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
だいぶ古いことですが、イギリスの『タイムズ』という一流新聞の文芸附録に『乞食から国王まで』という本の紹介がのっていました。著者は四〇歳を越した一人の看護婦でした。二〇年余の看護婦としての経験と彼女の優秀な資格は、ロンドン市・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・さっきも云った隣との区切りの唐紙が、普通の襖紙で貼ってなく、新聞の附録の古くさい美人画や新聞や、そこらに落こちていた雑誌の屑のようなもので貼られていた。幾年か昔、この長屋が始めて建ったときには、そこだってきっとおばさん達のいる方のように、茶・・・ 宮本百合子 「一太と母」
出典:青空文庫