・・・ 眼が覚めてみると、此処は師団の仮病舎。枕頭には軍医や看護婦が居て、其外彼得堡で有名な某国手がおれの傷を負った足の上に屈懸っているソノ馴染の顔も見える。国手は手を血塗にして脚の処で暫く何かやッていたが、頓て此方を向いて、「君は命拾を・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・自分自身を悪い男だ、駄目な男だと言いながら、その位置を変える事には少しも努力せず、あわよくばその儘でいたい、けれどもその虫のよい考えがあまり目立っても具合いが悪いので、仮病の如くやたらに顔をしかめて苦痛の表情よろしく、行きづまった、ぎりぎり・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・戦争の永年、軍隊の指導部員としての生活をして来て、軍規の野蛮さ、絶対命令に対するはかない抵抗としての兵士たちの仮病を見破りつづけて来た人々。死ぬものを「一丁あがり」と看守がいうような牢獄生活をつづけて来た人々。そういう不幸な痕跡をもった人々・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
出典:青空文庫