・・・この男等の生涯も単調な、疲労勝な労働、欲しいものがあっても得られない苦、物に反抗するような感情に富んでいるばかりで、気楽に休む時間や、面白く暮す時間は少ないのであるが、この生涯にもやはり目的がないことはあるまいと思われるのである。 この・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・それからまもなく、れいのドカンドカン、シュウシュウがはじまりましたけれども、あの毎日毎夜の大混乱の中でも、私はやはり休むひまもなくあの人の手から、この人の手と、まるでリレー競走のバトンみたいに目まぐるしく渡り歩き、おかげでこのような皺くちゃ・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・社のほうだってそう毎日休むわけには行かない。夜は遅くまで灯の影が庭の樹立の間にかがやいた。 反響はかなりにあった。新時代の作物としてはもの足らないという評、自分でも予期していた評がかなり多かった。それに、青年の心理の描写がピタリと行って・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・これらの鳥の啼くのでも大概平均三声くらい啼いてから少時休むという場合が多いようである。偶然と云えば偶然かもしれないが、しかし何か生理的に必然な理由があるのかもしれない。 七月二十一日にいったん帰京した。昆虫の世界は覗く間がなかった。・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・「六部も七部もあるのか。」「そんなにはない。」「昼間は何をしている。」「四時から店を張るよ。昼間は静だから入らっしゃいよ。」「休む日はないのか。」「月に二度公休しるわ。」「どこへ遊びに行く。浅草だろう。大抵。」・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・そうして彼らの間に規律と云うものが無かったならば、――彼らのうちには今日は頭が痛いから休むというものもできようし、朝の七時からは厭だからおれは午後から出るとわがままを云うものもできようし、あるいは今日は少し早く切り上げて寄席へ行くとか、ある・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・僕は人の前に出る毎に、この反対衝動の発作が恐ろしく、それの心配と制止観念とで、休む間もなく心を疲らし、気を張りきって居らねばならぬ。その苦しさと苛だたしさとは、到底筆紙に説明することが出来ないのである。しかも表面はさりげなく、普通に会話して・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ことばにつくせない犠牲をはらったドイツの民主主義のために、エリカ・マンの美しいエネルギーは、まだまだ休む暇はあたえられていないのである。 ふかい犠牲をはらった民主主義への道と書かれている内山氏の紹介の文章をよむとき、私たちの魂にひびく共・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 午前に一度、午後に一度は、極まって三十分ばかり休む。その時は待合の病人の中を通り抜けて、北向きの小部屋に這入って、煎茶を飲む。中年の頃、石州流の茶をしていたのが、晩年に国を去って東京に出た頃から碾茶を止めて、煎茶を飲むことにした。盆栽・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・私の心は日夜休むことがない。私は自分の内に醜く弱くまた悪いものを多量に認める。私は自己鍛錬によってこれらのものを焼き尽くさねばならぬ。しかし同時に私は自分の内に好いものをも認める。私はそれが成長することを祈り、また自己鞭撻によってその成長を・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫