・・・人性本然の向上的意力が、かくのごとき休止の状態に陥ることいよいよ深くいよいよ動かすべからずなった時、人はこの社会を称して文明の域に達したという。一史家が鉄のごとき断案を下して、「文明は保守的なり」といったのは、よく這般のいわゆる文明を冷評し・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・それが五年も休止状態にあったのであるから、そろそろまた一つぐらいはかなりなのが台湾じゅうのどこかに襲って来てもたいした不思議はないのであって、そのくらいの予言ならば何も学者を待たずともできたわけである。しかし今度襲われる地方がどの地方でそれ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・それにもかかわらず、大多数の東京市内電車の乗客は、長い休止の後に来る最初の満員電車に先を争って乗らなければ気が済まないように見える。これは自分のようなものにはほとんど了解のできない心持ちであるが、しかしよく考えてみると、これがあるいはわが国・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・私見によるとおそらくこれは四拍子の音楽的拍節に語句を配しつつ語句と語句との間に適当な休止を塩梅する際に自然にできあがった口調から発生したものではないかと想像されるのであるが、これについては別の機会に詳説することとして、ここではともかくそうし・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・八分の一の低音の次に八分の一の休止があってその次に急速に駆け上がる飾音のついた八分の一が来る。そこでペダルが終わって八分の一の休止のあとにまた同じような律動が繰り返される。 この美しい音楽の波は、私が読んでいる千年前の船戦の幻像の背景の・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・一景平均五分程度という急速なテンポで休止なしに次から次へと演ぜられる舞台や茶番や力技は、それ自身にはほとんど何の意味もないようなものでありながらともかくも観客をおしまいまであまり退屈させないで引きずって行くから不思議なものである。 昔見・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・このことは、とりもなおさず、過去の文学の休止符はどの辺でうたれたかというきびしい現実を示す一方、この数年の間、日本の民衆生活内部にある若々しく貴重な創造力が、どれほど徹底的に圧殺されてきたかということを証明している。 作家たちは、自分た・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ソヴェトでは働く婦人の健康の特にこの点を注意して、新しく制定された工場の規定では、これまで一時間あった昼休みの外に午前と午後、或る時間内機械を休止させ、就業中窓をしめているところでは窓をあけ、皆そろって深呼吸と簡単な全身の体操をすることにな・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・暴れる時は、天地の軸が歪みそうで、天帝の眉さえ顰む程だが、必ずあとに、休止と云うものが従っている。 私は始めもなければ終りもない。夜も昼も区別をしない働き手です。余り身軽で、静かで、伴う物音がないから、時々行方をくらましたとさえ思われ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・再び人間は統一へ、霊と肉との調和をもってしかも休止し、妥協することない活動へ向う時代にさしかかっている。 ドストイェフスキーの考えかたをふえんすれば「現代は個々の精神が彼の時代におけるような循環的混沌の中に上下していられないほど、精・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
出典:青空文庫