・・・ 十二の時に、柏木の叔父さんが、私の綴方を「青い鳥」に投書して下さって、それが一等に当選し、選者の偉い先生が、恐ろしいくらいに褒めて下さって、それから私は、駄目になりました。あの時の綴方は、恥ずかしい。あんなのが、本当に、いいのでしょう・・・ 太宰治 「千代女」
・・・朝押し入れから蒲団や行李を引き出して荷造りをしている間にも、宿を移ったとて私はどうなるだろうと思う。叔父さんや弟は、宿でも変えて気分を新たにしたら学校へ行けるような心持ちになるだろうという。私は学校のほうへ一歩も向かう勇気はもうない。いやだ・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・で、計画はなかなか大仕掛けなのです。叔父さんもひと夏子供さんをおつれになって、ここで過ごされたらどうです。それや体にはいいですよ」「そうね、来てみれば来たいような気もするね。ただあまり広すぎて、取り止めがないじゃないか」「それああな・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・「二度ばかり、松山の伯父さんとこへお尋ねしたそうですが、青木さんが叔父さんに逢ってお話したいそうですがいずれ私たちの悪口でしょうと思いますけれど」 道太はそれは逢ってもいいと思った。幸いに彼の話を受け容れることができさえすれば、道太・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・重吉のほうでも自分らを叔父さん叔母さんと呼んでいた。二 重吉は学校を出たばかりである。そうして出るやいなやすぐいなかへ行ってしまった。なぜそんな所へ行くのかと聞いたら別にたいした意味もないが、ただ口を頼んでおいた先輩が、行っ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・その中で自分の叔父さんが一番偉いという答を寄こしたのがあると聞いてはなはだ面白く感じました。自分の親父が天下一の人物だなどは至極好い了見で結構です。それは余事であるが、とにかく先生や新聞などからして、日本にたった一人偉い人があって、その人は・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・そして叔父さんに挨拶して来たんだ。僕の叔父さんなんか偉いぜ。今日だってもう三十里から歩いているんだ。僕にも一緒に行こうって云ったけれどもね、僕なんかまだ行かなくてもいいんだよ。」「汝ぃの叔父さんどごまで行く。」「僕の叔父さんかい。叔・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・そこに叔父さんがいた。その人は絵描きであった。 お千代ちゃんは、由子の入った女学校の試験を受ける積りであった。由子はどうかして入って欲しいと思った。女学校をずっと二人で通えたら、それは素晴らしいことだ。由子は勿論お千代ちゃんは容易く試験・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・「とんだお嬢さんだね、ハハハハハ貴女の親切な叔父さんが似合うと仰云いましたか?」 例によって、入口が開くと同時に顔を出したうめが、階子のかげから異常な注意をあつめて、この光景を観ていた。アーニャの色艶のない小さい顔が泣きそうに赧くな・・・ 宮本百合子 「街」
・・・「わたし、どうせここまで出たついでだから浜町へ廻って行きたいんだけれど……」 お清は、みのえを見た。「叔父さんのところへ来るかい」「いや」 油井が、みのえの方は見ず、「じゃ、奥さん行ってらっしゃい、私、みのえさんを家・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
出典:青空文庫