・・・ 十三、絵や音楽にも趣味ある事。但しどちらも大してはわからざる如し。 十四、どこか若々しき所ある事。 十五、皮肉や揚足取りを云わぬ事。 十六、手紙原稿すべて字のわかり好き事。 十七、陸海軍の術語に明き事。少年時代軍人にな・・・ 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・云わば、御主を磔柱にかけた罪は、それがしひとりが負うたようなものでござる。但し罰をうければこそ、贖いもあると云う次第ゆえ、やがて御主の救抜を蒙るのも、それがしひとりにきわまりました。罪を罪と知るものには、総じて罰と贖いとが、ひとつに天から下・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・そこで、大意を支那のものを翻訳したらしい日本文で書いて、この話の完りに附して置こうと思う。但し、これは、李小二が、何故、仙にして、乞丐をして歩くかと云う事を訊ねた、答なのだそうである。「人生苦あり、以て楽むべし。人間死するあり、以て生く・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・ 肺病のある上へ、驚いたがきっかけとなって心臓を痛めたと、医者が匙を投げてから内証は証文を巻いた、但し身附の衣類諸道具は編笠一蓋と名づけてこれをぶったくり。 手当も出来ないで、ただ川のへりの長屋に、それでも日の目が拝めると、北枕に水・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 但し、以下の一齣は、かつて、一樹、幹次郎が話したのを、ほとんどそのままである。「――その年の残暑の激しさといってはありませんでした。内中皆裸体です。六畳に三畳、二階が六畳という浅間ですから、開放しで皆見えますが、近所が近所だか・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ この行燈で、巣に搦んだいろいろの虫は、空蝉のその羅の柳条目に見えた。灯に蛾よりも鮮明である。 但し異形な山伏の、天狗、般若、狐も見えた。が、一際色は、杢若の鼻の頭で、「えら美しい衣服じゃろがな。」 と蠢かいて言った処は、青・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・五 神楽坂路考 これほどの才人であったが、笑名は商売に忙がしかった乎、但しは註文が難かしかった乎して、縁が遠くてイツまでも独身で暮していた。 その頃牛込の神楽坂に榎本という町医があった。毎日門前に商人が店を出したというほ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・いが、その意味は、私のペン・ネエムは知っていても本名は知らなかったので失礼した、アトで偶っと気がついて取敢えずお詫びに上ったがお留守で残念をした、ドウカ悪く思わないで復た遊びに来てくれという、慇懃な、但し率直な親みのある手紙だった。 折・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・さきの保証金とあわせて二万二千円、但し新聞広告代にざっと三千円掛り、差し引き一万九千円の金がはいったと、丹造は算盤をはじいた……。 嘘みたいな上首尾だった。こうまで巧く成功するのは、お前……いや、このおれも予想しなかった。たいていの・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・失敗ではなかったかと思っています。但し、理髪店から「友田……」の声がきこえて来るところ、あそこがこの小説の眼目です。この友田は「聴雨」の坂田と同じ重要性をもっているのです。友田も坂田も青春なき「私」のある時代に映じたある青春の象像です。それ・・・ 織田作之助 「吉岡芳兼様へ」
出典:青空文庫