・・・時戸まどいをさせた、そのオリジナリティに対する賛美に似たあるものと、もう一つには、その独創的計画をどこまでも遂行しようという耐久力の強さ、しかも病弱の体躯を寒い上空の風雨にさらし、おまけに渦巻く煤煙の余波にむせびながら、飢渇や甘言の誘惑と戦・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ 十月初めに信州へ旅行して颱風の余波を受けた各地の損害程度を汽車の窓から眺めて通ったとき、いろいろ気のついたことがある、それがいずれも祖先から伝わった耐風策の有効さを物語るものであった。 畑中にある民家でぼろぼろに腐朽しているらしく・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・努力の余波が顎の筋肉に伝わって何かしら噛んでいたくなるのかとも考えてみた。自分の知っている老人で、機嫌が悪くて怒りたいのを我慢しているときに、入歯を止みなく噛み合わせるのが居た。またある精力家努力家で聞えた医者で患者を診察しながら絶えず奥歯・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・この方法が西欧で自覚的にもっぱら行なわれこれが本来の詩というものの本質であるとして高調されるに至ったのは比較的新しいことであり、そういう思想の余波として仏国などで俳諧が研究され模倣されるようになったようである。しかしこの方法の極度に発達した・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・千住よりの小蒸気けたゝましき笛ならして過ぐれば余波舷をあおる事少時。乗客間もなく満ちて船は中流に出でたり。雨催の空濁江に映りて、堤下の杭に漣れんい寄するも、蘆荻の声静かなりし昔の様尋ぬるに由なく、渡番小屋にペンキ塗の広告看板かゝりては簑打ち・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・そうして子細に考えてみると緊張に次ぐ弛緩の後にその余波のような次第に消え行く弛張の交錯が伴なうように思われる。しかし弛緩がきわめて徐々に来る場合はどうもそうでないようである。 惰性をもったものがその正常の位置から引き退けられて、離たれた・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・これ等の事情をもって考るに、今の成行きにて事変なければ格別なれども、万に一も世間に騒動を生じて、その余波近く旧藩地の隣傍に及ぶこともあらば、旧痾たちまち再発して上士と下士とその方向を異にするのみならず、針小の外因よりして棒大の内患を引起すべ・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・に問わざるのみならず習俗の禁ぜざる所なれば、社会の上流良家の主人と称する者にても、公然この醜行を犯して愧ずるを知らず、即ち人生居家の大倫を紊りたるものにして、随って生ずる所の悪事は枚挙に遑あらず、その余波引いて婚姻の不取締となり、容易に結婚・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・一回分の半以上迄無事に進んだが、そのうち又、心についてはなれない感動の余波で注意が、仕事から逸し勝ちになる。自分は総てこの一事によって経験した自分の心持ちを書いたら、幾分頭はしずまり、仕事につけるだろうと思いついて、此の筆を執ったのだ。・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・は、ある労働者街の無産者托児所の生活を中心として、東交の職場が各車庫別のストライキに立っていたころの動揺、地区のオルグとして働いている人物の検挙につれて、その余波が托児所にまでひろがって来る前後のいきさつを題材としている。テーマは、革命的な・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
出典:青空文庫