・・・手本が頭にはいりすぎたり、手元に置いて書いたり、模倣これ努めたりしている人たちが、例えば「殺す」と書けばいいところを、みんな「お殺し」と書いたりすれば、まことにおかしな[#「な」は底本では判読不可。268-上-8]ことではないか。 ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ それと同じでんで、大阪を書くということは、例えば永井荷風や久保田万太郎が東京を愛して東京を書いているように、大阪の情緒を香りの高い珈琲を味うごとく味いながら、ありし日の青春を刺戟する点に、たのしみも喜びもあるのだ。かつて私はそうして来・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・労働者、農民大衆の××に対する政府の不安は増大して来る。例えばロシアに於ては、日露戦争の後に千九百五年の××が起り、欧洲大戦の終りに近く、千九百十七年の××が起っている。パリー・コムミュンの例をとって見ても、この事実は肯かれる。プロレタリア・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・なぜかと言いますと、他の、例えばキス釣なんぞというのは立込みといって水の中へ入っていたり、あるいは脚榻釣といって高い脚榻を海の中へ立て、その上に上って釣るので、魚のお通りを待っているのですから、これを悪く言う者は乞食釣なんぞと言う位で、魚が・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・また観行院様は至って注意深い方で、例えば星は四時地位の定まらないものであるのに一寸戸外へ出て天を仰いで星を御覧になると、ああ彼星が彼辺に在るから最う何時であるなぞと、ちゃんと時を知って居られた。そういう調子であったから子供心にも時々驚いて服・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・というものさえ作っている、そして例えば、外部の「モップル」と連絡をとって、実際の運動と結びつこうとしたり、内では全部が結束して「獄内待遇改善」の要求を提出しようとしているそうだ。 彼奴等がわれ/\をひッつかんで、何処へ押しこもうとも、わ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・一人の代表者を選ぶならば、例えば Gauss. g、a、u、ssです。急激に、どんどん変化している時代を過渡期というならば、現代などは、まさに大過渡期であります。」てんで、物語にもなんにもなってやしない。それでも末弟は、得意である。調子が出・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・他人の月給をそねみ、生活を批評し、自分の不平、例えば出張旅費の計算で陰で悪口の云い合い、出張成金めとか、奥さんがかおを歪めて、何々さんは出張ばかりで、――うちなんか三日の出張で三十円ためてかえりましたよ。すると一方の奥さんは、うちは出張して・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・それで学生や学者に対してのみならず、一般人の知識慾を満足させる事を煩わしく思わない。例えば労働者の集団に対しても、分りやすい講演をやって聞かせるとある。そんな風であるから、ともかくも彼が教育という事に無関心な仙人肌でない事は想像される。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・それを拾って読んでみると例えば「一同」「円」などはいいが「盪」などという妙な文字も現われている。それが何かの意味の深い謎ででもあるような気がするのであった。「蛉かな」という新聞の俳句欄の一片らしいのが見付かった時は少しおかしくなって来てつい・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
出典:青空文庫