・・・が、よしんば二人が要領のよい厚かましい兵隊であったところで、隊長の酒の肴を供出するような農民は昭和二十年の八月にはもういなかった。「こんなスカタンな、滅茶苦茶な戦争されて、一時間のちの命もわからんようなことにされながら、いくら兵隊さんに・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ 米 一月十日現在として全国の供出米が割当のやっと二割八分しか集まらなかったことが報じられている。先頃、中国地方の田舎を旅行したときも、話題は供出米が中心となった。自主的に米を供出している村の人たちで営団にその・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・精根つくして自分で米をつくっている農民が、強制供出に応じなければ、刑にふれて牢獄に入れられることになった。供出したがらないには、農業会、統制会、その他の全配給機構への農民の不信任があるのだし、第一には、これまで俺たちは騙されていた、という支・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・献金、献金、供出、供出と強要できたろう。八月十五日が来たとき、日本じゅうに灰色の煙をたててそれらの血ぬられた統計は焼却された。 官僚統計さえ、その多くは焼きすてられなければならなかったような日本の実状へ、新しく響く民主化の声は、世論、と・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・農民組合は日本全国にわたって供出の合理化と公正な農地調整法の実現のために闘っており、日本でははじめて全国的な農民組合婦人部の大会が近々にもたれようとしています。 つい一年ばかり前はあのような屈従を強いられていた日本の全女性が、各方面でこ・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・ つい先頃、一月十日までの供出米は、予定の二割ばかりしかないという報道があった。殆ど時を同じくして、農林大臣は、米の専売案を語り、農林省の下級官吏たちは大会をもって、食糧の人民管理を主張した。この対照は、新聞をよんだすべての人々に、深い・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・学校当局は、丁度幣原内閣が、増産対策も、食糧対策も現実には持っていなくて自然、働く者の生産参加と人民の食糧管理又は供出の管理に任せなければならないでいるとおりに、学生の問題を学校当局として処理して行く能力を欠いてしまっている。これまでの学校・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・の立場にかわりはないばかりか、一家の柱として供出、税、どれひとつ男の戸主がいるときどおりにとり立てられ、増加して徴収されていないものはないのが現実です。 現在日本には一千万人の小学生がいます。憲法では、小中学校教育は親に負担とならないも・・・ 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・地方の農村の国民学校が、すべて学業よりも草刈り、繩作りと軍需供出にせめたてられていた最中に、先生としてすべての労作に耐えて来ました。 良人が亡くなられてから、上京して暫く国民学校につとめ、近頃は大町さんの最も愛する仕事、日本の働くすべて・・・ 宮本百合子 「婦人の皆さん」
・・・議会は、そして全日本は、再び黒雲に閉されるのである。供出に対する強権発動によって、地方では首を吊る者が出ている。米がなければ身ぐるみ剥ぐといわれ、それが行われている。「勅令」によってこのことが行われているのである。 主権在民の憲法が、偽・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫