・・・『露団々』は露伴の作才の侮りがたいのを認めしめたが、奇想天来の意表外の構作が読者を煙に巻いて迷眩酔倒せしめたので、私の如きも読まない前に美妙や学海翁から散々褒めちぎって聴かされていたためかして、読んだ時は面白さに浮れて夢中となったが、その面・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・ 元来正賓は近年逆境におり、かつまた不如意で、惜しい雲林さえ放そうとしていた位のところへ、廷珸の侮りに遭い、物は取上げられ、肋は傷けられたので、鬱悶苦痛一時に逼り、越夕して終に死んでしまった。廷珸も人命沙汰になったので土地にはいられない・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・やはり文明の力を買いかぶって自然を侮り過ぎた結果からそういうことになったのではないかと想像される。新聞の報ずるところによると幸いに当局でもこの点に注意してこの際各種建築被害の比較的研究を徹底的に遂行することになったらしいから、今回の苦い経験・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・また、士族の気風にして、祖先以来、些少にても家禄あれば、とうてい飢渇の憂なく、もとより貧寒の小士族なれども、貧は士の常なりと自から信じて疑わざれば、さまで苦しくもなく、また他人に対しても、貧乏のために侮りをこうむることとてはなき世の風俗なり・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・一家の主人、その妻を軽蔑すれば、その子これに傚て母を侮り、その教を重んぜず。母の教を重んぜざれば、母はあれどもなきが如し。孤子に異ならざるなり。いわんや男子は外を勤て家におること稀なれば、誰かその子を教育する者あらん。哀というも、なおあまり・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・そのためにも、新聞小説の牽く力は、一度それに皮膚を馴らされた作家にとって、決して侮りがたいものをもっているであろうと思える。 文学の問題としてみるとき、新聞小説の通俗性の側から云々されるよりも、寧ろ、作家の本来的な内面生活からいかに思想・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
出典:青空文庫