・・・と大書した紙をぶら下げた鉄条網に二百ボルトの電流を通じて警官の侵入を防いでいる写真が新聞に出たりした。闘争基金千円を募集し食糧を一ヵ月分車輌の中に運び込んでいること。婦人従業員をふくめた自衛団が組織され、全員十六歳から二十五歳という青年だが・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・フランスとドイツの伝統的な対立の感情は誰でも知っているから、フランスは侵入されてもなかなか譲歩しないだろうと思われていた。世界のいろいろな国民がそう思っていたばかりでなく、フランスの国民の大部分もそう思っていたらしい。ところが、巴里の凱旋通・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・一部から侵入者と見られた。それほど、日本の旧来の文学者たちは、自身の文学の限界について自覚がなかった。いいかえれば自身発展の意欲を欠いていた。したがって保守たらざるをえない。 一九三二年に、国際情勢に関する国際的な研究結論が発表された。・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 科学精神における、こういうような、多種多様で且つ隠微な形のマイナスの侵入は実に危険であると思う。何故なら、科学性の客観的敗北は常にこの盲点を契機として行われ、しかもそれが敗北であることがどうしても自覚され得ないという危険をもっているか・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・景気がふきあれていて、家庭にも朝鮮景気が侵入しているし、新聞雑誌などでも朝鮮の動乱で日本は儲かっていいという話がおおっぴらにされている。全体のそういう火事場泥棒めいた雰囲気のなかで、先生の正直であれという声は、案外にも、だから先生んちはいつ・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・モスクワへ侵入軍が迫るという時、私はどんな憤りを以って侵入者の近寄る足音を想像したろう。そして、いつも想った。私がモスクワにいたころ、逢った幾人かの作家たち、ピオニェールたち、労働者たちは今日、どんな戦線にたっているであろうかと。 一九・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・御承知の通り、イギリスやチェックは白軍と連合してどんどん侵入して来るし……。 第一「十月」革命当時、ブルジョア・インテリゲンチアの社会民主主義者連はボルシェヴィキーに対して何といったと思います? こういってたんです。「パリ・コンミュー・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・例えば日本の貴族は、西洋の歴史にあらわれるような侵入的な外国的存在ではないから、その貴族文学とそこに語られている心情は当時の全国民のものであるという断定での、貴族のエティケットが農民にまで及んでいるのが日本の性格であるというような結論は、何・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・薄井の方の茄子畠に侵入して、爺さんに追われて帰ることもある。牝鶏同志で喧嘩をするので、別当が強い奴を掴まえて伏籠に伏せて置く。伏籠はもう出来て来た新しいので、隣から借りた分は返してしまったのである。鳥屋は別当が薄井の爺さんにことわって、縁の・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・アメリカを征服したヨーロッパ人たちが、このアフリカの沿岸にも侵入し、侵入した限りは破壊し去ったのである。なぜか。アメリカの新しい土地が奴隷を必要としたからである。アフリカは奴隷を供給した。何百、何千の奴隷を、船荷のようにして。しかし人身売買・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫