・・・もしも彼女が、上成績で学位をとったことを、これから安楽な奥さん生活を営むためにより有利な条件として利用しようとでもする俗っぽい性根であったなら、決してピエール・キュリーのような天才的な、創意にみちた科学者の人柄と学問の立派さを理解することは・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 藪かげのこみちを歩きながら、この俗っぽい、商人の薄情な琴平に、こういう裏みちもある、ということをなつかしく感じた。慾とくをはなれた年月の間この町にも苔のついた石段が、穏和な生活の道としてあることに安らぎを感じた。 数年前、弟が出征・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・どの作品でも、オオドゥウは寄るべない一人の貧困な少女がこの世の荒波を凌いで、俗っぽい女の立身とはちがう人間らしさの満ちた生活を求めて、健気にたたかってゆく姿を描いているのであるが、最近出版された「マリイの仕事場」は、オオドゥウの人生に対する・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・同時に、一日本人としての漱石自身が十八世紀のイギリスを俗っぽいと感じ、下等だ、と感じるその感じかたについて、どこまで過去の儒教的な教育ののこりが自身の心持の底に作用しているか、所謂文人的教養の趣味が評価に際してつよく影響しているかということ・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・ それに、すぐ目の前に江の島の、あの安っぽい棧橋側が見えて、うすきたない石がけにごみがよせて見えるので、何となし俗っぽい。 あの江の島の貝細工店の女達の様に、いやみなところがどこかある。 けれ共、松のある出島の裾まで、白い波頭が・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・親の目的は世界の俗っぽい親の目的どおり到って現実的だった。出来るだけ金持の男へ、出来るだけ権勢ある貴族へ好い条件で娘を嫁にやれるように、という範囲でなら、何も特色の一つだ。哲学ずきさえも、もし美しく化粧することを忘れない程度ならサロンの風変・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・この結論が、最も俗っぽい、青春の誇りを失った本質のものであることを、こう書いてみれば、否定する娘さんは恐らくそう沢山はあるまい。けれども、或る種の人たちのように、はっきり率直にその転落を表明もせず、従ってそれを考え直すという希望のあるモメン・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・ ハンス・ギーベンラートという感受性のきわめてつよい、内気な、天賦の才能のかくされた少年が大人たちの俗っぽい野心や名誉心の犠牲となって、ついに自然なその子にふさわしい成長を挫かれ、あわれな最後をとげる一つの物語である。作者は、ハンスと同・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫