・・・がその個人的に出来上った芸術家でも、彼ら同業者の利益を団体として保護するためには、会なり倶楽部なり、組合なりを組織して、規則その他の束縛を受ける必要ができてくる。彼らの或者は今現にこれを実行しつつある。してみれば放縦不羈を生命とする芸術家で・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ 監獄で私達を保護するものは、私達を放り込んだ人間以外にはないんだ。そこの様子はトルコの宮廷以上だ。 私の入ってる間に、一人首を吊って死んだ。 監獄に放り込まれるような、社会運動をしてるのは、陽気なことじゃないんです。 ヘイ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ 帝室より私学校を保護せらるるの事については、その資金をいかんするやとの問題もあれども、この一条はもっとも容易なることにして、心を労するに足らず。我が輩の持論は、今の帝室費をはなはだ不十分なるものと思い、大いにこれを増すか、または帝室御・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・家内安全を保護する道徳の教えも、貴重は則ち貴重なれども、更に貴重なる公務には叶わぬものなりとて、既に公務に対して卑屈の習慣を養成し、次いで年齢に及びて人間社会の一人となり、戸外公共の事務を取扱うの身分となれば、生来の習慣忽ち活動し、公は以て・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・自己を保護せずしてかえって自己を棄てたる俗世俗人に対してすら、彼は時に一、二の罵詈を加うることなきにしもあらねど、多くはこれを一笑に付し去りて必ずしも争わざるがごとし。「独楽」の中にたのしみは木芽にやして大きなる饅頭を一つほほばりし・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・今度改正された憲法は、その中に、すべての人民は法律の前に平等であるとされていて、性別身分などの特権によって特別な利益を保護されることはないように規定されている。しかしその中に天皇という特別な一項がある。華族は世襲でなくなったが、天皇の地位は・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・婦人労働者が平等の賃銀と母性保護を求め、女子学生が文部省のひどい月謝値上げに反対していて、男子学生とともに、働きながら学べる大学を求めていることは、この新帰朝者に知られていません。日本のわたしたちは、憲法の抽象的な人権擁護の文句を、実質のあ・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・だから忠利の心では、この人々を子息光尚の保護のために残しておきたいことは山々であった。またこの人々を自分と一しょに死なせるのが残刻だとは十分感じていた。しかし彼ら一人一人に「許す」という一言を、身を割くように思いながら与えたのは、勢いやむこ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・それを言明しても、果物が堅実な核を蔵しているように、神話の包んでいる人生の重要な物は、保護して行かれると思っている。彼を承認して置いて、此を維持して行くのが、学者の務だと云うばかりではなく、人間の務だと思っている。 そこで秀麿は父と自分・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・そこで、彼は蒼ざめた顔をして保護色を求める虫のように、一日丘の青草の中へ坐っていた。日が暮れかかると彼は丘を降りて街の中へ這入って行った。時には彼は工廠の門から疲労の風のように雪崩れて来る青黒い職工達の群れに包まれて押し流された。彼らは長蛇・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫