・・・アメリカ役者にはどこを捜してもない一種の俳味といったようなものが、このルイとエミールの二人にはどこかに顔を出しているのがおもしろいと思う。このいわゆる俳味というのはロイドやキートンになくてチャプリンのどこかにある東洋哲学的のにおいである。そ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・あすこにもやはり一種の俳味があり、そうしていかにも老夫婦らしいさびた情味があってわれわれのような年寄りの観客にはなんとなくおもしろい。 しかし映画芸術という立場から見るとむしろ平凡なものかもしれないと思われた。 八 ベン・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・殺風景だと思っていたコンクリートの倉庫も見慣れると賤が伏屋とはまたちがった詩趣や俳味も見いだされる。昭和模様のコーヒー茶わんでも慣れればおもしろくなるかもしれない。それがおもしろくなるまでの我慢がしきれないで、近ごろの若い者はを口癖にいうの・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・実に無意味なおもちゃであるがしかしハーモニカやピッコロにはない俳味といったようなものがあり、それでいて南蛮的な異国趣味の多分にあるものであった。 むきになって理屈を言ってる鼻の先へもって来てポペンポペンとやられると、あらゆる論理や哲学な・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・先ず第一に表紙の図案が綺麗で目新しく、俳味があってしかも古臭くないものであった。不折、黙語、外面諸画伯の挿画や裏絵がまたそれぞれに顕著な個性のある新鮮な活気のあるものであった。現在のようなジャーナリズム全盛時代ではおそらく大多数のこうした種・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・此の夏は福島のふるさとに帰って祖母達と久しぶりで此の俳味に富んだ何とも云われぬ古風な懐しい情景に親しむことができました。夕方お星様がチラチラまたたく頃になると何の家でも生のままの杉の葉をいぶしてその紫の煙で蚊を追いやるのです。そして人々は煙・・・ 宮本百合子 「蚊遣り」
出典:青空文庫