・・・真個の第四階級から発しない思想もしくは動機によって成就された改造運動は、当初の目的以外の所に行って停止するほかはないだろう。それと同じように、現在の思想家や学者の所説に刺戟された一つの運動が起こったとしても、そしてその運動を起こす人がみずか・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ どんなに深く愛する人でも、どんなに重く敬する人でも、一度心臓音の停止を聞くや、なお幾時間もたたないうちから、埋葬の協議にかかる。自分より遠ざけて、自分の目より離さんと工夫するのが人間の心である。哲学がそれを謳歌し、宗教がそれを賛美し、・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・そこでは古い生活は死のような空気のなかで停止していた。思想は書棚を埋める壁土にしか過ぎなかった。壁にかかった星座早見表は午前三時が十月二十何日に目盛をあわせたまま埃をかぶっていた。夜更けて彼が便所へ通うと、小窓の外の屋根瓦には月光のような霜・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・ 或日の夕暮、一人の若い品の佳い洋服の紳士が富岡先生の家の前えに停止まって、頻りと内の様子を窺ってはもじもじしていたが遂に門を入って玄関先に突立って、「お頼みします」という声さえ少し顫えていたらしい。「誰か来たぞ!」と怒鳴ったの・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・青年はしばし四辺を見渡して停止みつおりおり野路を過る人影いつしか霧深き林の奥に消えゆくなどみつめたる、もしなみなみの人ならば鬱陶しとのみ思わんも、かれは然らず、かれが今の心のさまとこの朝の景色とは似通う節あり、霧立ち迷うておぼろにかすむ森の・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・故郷の兄は私のだらし無さに呆れて、時々送金を停止しかけるのであるが、その度毎に北さんは中へはいって、もう一年、送金をたのみます、と兄へ談判してくれるのであった。一緒にいた女の人と、私は別れる事になったのであるが、その時にも実に北さんにお手数・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・風車がぴたりと停止した時、「ありがとう!」明朗な口調で青年が言った。 私もはっきり答えた。「ハバカリサマ。」 それは、どんな意味なのか、私にはわからない。けれども私は、そう言って青年に会釈して、五、六歩あるいて、実に気持がよ・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・ 星の世界の住民が大砲弾に乗込んで地球に進入し、ロンドン附近で散々に暴れ廻り、今にも地球が焦土となるかと思っていると、どうしたことか急にぱったりと活動を停止する。変だと思ってよく調べてみると、星の世界には悪い黴菌がいないために黴菌に対す・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・そうなればすべての活動は停止して冬眠の状態に陥ってしまうであろう。それならばまだまだ安全であるが、排泄物をなくするために食物を全廃すれば餓死するより外はない。 鉛をかじる虫も、人間が見ると能率ゼロのように見えても実はそうでなくて、虫の方・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・万象が停止すれば時の経過は無意味である。「時」が問題になるところにはそこに変化が問題になる四元世界の一つの軸としてのみ時間は存在する。 ところがこの生理的の速度計はきわめて感じの悪いものである。ある度以下の速度で行なわれる変化は変化とし・・・ 寺田寅彦 「春六題」
出典:青空文庫