・・・現実は健やかであると思う。子供たちは大人の心やりのために、彼等の喚声と動きとの明暮をもっているのではないのだから。 宮本百合子 「子供の世界」
・・・肉体の健やかな自然の要求はそこに在る筈である。 仕舞は、整えられ美とされている線であるにしろ、そうやって既に制約されつめた動作を、又別の制約で鋳つける。きっちりときまりに従って、爪先を一分刻みに移してゆくような緊張を求められている。それ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・先生よ、幸にお健やかでしょうか。 師といえば、私の作品を初めて紹介して下さった坪内逍遙先生のこともふれなければならないわけである。 坪内先生とは余り年代がちがいすぎていた。それに私としての結ばれかたが他動的であったことなどから、外面・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ さてかようにしてヒューマニズムの声は、当時の日本の文学を一定の文芸思潮としてのその力でより高めより健やかにしてゆくというよりも、むしろ文芸思潮の失われた後の文学界の錯雑した諸傾向それぞれに、人間像再生の理由によって総花を撒いた形となっ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 決意のかたいこの人々が益々体も健やかに精神のひろやかなゆとりをも持って活動される事を切望する。 只でさえ女の先生を見る周囲の目は、そこに女の鑑を見ようとする傾きがつよいが、勇士の妻という事を、女先生の責任感に加重して負わせ過ぎない・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・という冒頭の一句から全篇二十三ヵ条にわたって真に心と肉体の健やかで人間らしい娘、妻、母を生むために必須な社会向上の要点を力説しているのである。 中島湘煙が、いいといった昔風な家庭の土台をなす益軒流の観念に対して、諭吉は歯に衣をきせず「女・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ マリ・アントワネットが宮園に百姓小家をつくらせたことは、当時の貴族の文化の健やかさを示すものとは見られず、フランス史の中で一つの頽廃の表象としてあらゆる人々に知られている。 日本の或る地方の農民は、極めて手のこんだ背い子を編む。だ・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・しかし、民主的な文学なら、必ずそこを基盤としなければならない民衆の健やかで平明で条理のとおった現実的判断が、この試作の基調となっています。読んで、アクのつよい、いやな後味は一つもなかったでしょう? 小さいけれども、まともなものです。『新日本・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・後年、日本の女詩人与謝野晶子の健やかな双脚をして思わずもすくませたりという凱旋門をめぐる恐ろしい自動車の疾駆は未だ見えず、二頭びきの乗合馬車がカツカツと二十世紀初頭の街路を通っている。 書簡註。ランガム・ホテル全景。第・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ばかりの峡谷の間から、かすかに、目に立たず流れ出し、忍耐づよく時とともにその流域をひろげ、初めは日常茶飯の話題しかなかったものが、いつしか文化・文学の諸問題から世界情勢についての観測までを互に語り合う健やかな知識と情感との綯い合わされた精神・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
出典:青空文庫