・・・私の住所と名前は表記のとおりです。偽名ではございませんから、御安心下さいませ。貴下が、他日、貴下の人格を完成なさった暁には、かならずお逢いしたいと思いますが、それまでは、文通のみにて、かんにんして下さいませ。本当に、このたびは、おどろきまし・・・ 太宰治 「恥」
・・・宿帳へは偽名をして附けた。なんでもホテルではおれを探偵だと思ったらしい。出入をするたびに、ホテルの外に立っている巡査が敬礼をする。 翌日は休日である。議会は休みのはずである。その翌日から予算が日程に上ぼっていて、大分盛んな議論があるらし・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 二十代のバルザックがまだ偽名であやしげな小遣いとりの小説を書いていた頃から彼を知っているサント・ブウヴなども自身の優秀な批評家としての感受性でバルザックの雄大さ、独特性、芸術上の追随を許さぬ成果を認めてはいるが、決してそれ以上の打ちこ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫