・・・てみた結果では、昨年の颱風の場合には、同時に満洲の方から現われた二つの副低気圧と南方から進んで来た主要颱風との相互作用がこの颱風の勢力増大に参与したように見えるのであるが、不幸にして満洲方面の観測点が僅少であるためにそれらの関係を明らかにす・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・けに聞こえるような鶏犬の声に和する谷川の音、あるいは浜べの夕やみに響く波の音の絶え間をつなぐ船歌の声、そういう種類のものの忠実なるレコードができたとすれば、塵の都に住んで雑事に忙殺されているような人が僅少な時間をさいて心を無垢な自然の境地に・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・そうしたためにもしこの僅少な時間を空費したとしても、乗車してからの数十分間にからだを休息させ、こういう時でなければちょっと読む機会のないような種類の読み物を十ページでも読むとすれば、差し引きして、どうしてもこのほうが利益であるとしか思われな・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・しかしそれが全く同じであるとしても、忘れなかった僅少なプロセントがその人にとってはもっとも必要な全部であるかもしれないのである。 世の中に工率百プロセントの器械は一つもない。注ぎ込んだエネルギーの一部は必ず無駄になって消費される。電燈の・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・もちろんこれは僅少な材料についての統計であるから、一般に適用される事かどうかはわからないが、上述のごとき和歌と俳句との自己に対する関係の相違を考え合わしてみるとおもしろい事実であろうかと思われる。いかなる悲痛な境遇でもそれを客観した瞬間には・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 今回の函館の大火はいかにして成立し得たか、これについていくらかでも正鵠に近い考察をするためには今のところ信ずべき資料があまりに僅少である。新聞記事は例によってまちまちであって、感傷をそそる情的資料は豊富でも考察に必要な正確な物的資料は・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・なお直接水産方面に関して、自分の知っているだけの僅少な例を挙げてみると、第一に漁具ことに網の研究である。各種の網糸の強弱弾性やその温度湿度によっての変化とか、網に付ける浮標の浮力、浸水の度やその耐圧度とか、あるいは網面に当る潮流の抵抗の研究・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・それでこれらの点における両者の精神作用の差違はあっても僅少なものである。 漫画の目的とするところはやはり一種の真である。必ずしも直接な狭義の美ではない。ただそれが真であることによって、そこに間接な広義の美が現われるように思う。科学の目的・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・この人が今から百何十年前にこの像を得た時にはたぶん当時の学者の目を驚かせたに相違ないのであるが、それがその後の長い年月の間にただ僅少な物好きな学者たちの手で幾度となく繰り返され、少しずつ量的分析へのおぼつかない歩みをはこんでいただけであった・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ もちろん座標中心の付近には科学者の多数が群集していて、中心から遠い所に僅少の星が輝いているのである。 以上の譬喩は拙ではあるが、ルクレチウスが現代科学に対して占める独特の位地を説明する一助となるであろう。 誤解のないために繰り・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫