・・・ 終に暦が調べられ、結婚の儀式は吉日を選んで行われました。 娘の唖な事を隠して他人の手に引渡して、スバーの両親は故郷に帰って仕舞いました。有難いことです! 斯うやって彼等は親の務めを兎に角済ませたから、スバーの親達には此世の幸福と天・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・柱などを巻いた布が黒白のだんだらになっているところを見ると何かしら厳かな儀式でもあるように思われる。このようにして人夫等が大勢かかって、やっとそれが出来上がったと思う間もなく式が終って、またすぐに取りくずさなければならないであろう。 博・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・ もし空想をたくましゅうすることを許されれば、最初は宗教的儀式としてやっていた事が偶然鐘の音に対してある有利な効果のある事を発見し、次いでそれが鋳物の裂罅から来る音響学的欠点を修正するためだということに考え及び、そうして今度は意識的にそ・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・ あれほど常識的な英国にでもわれわれに了解の出来ないほど馬鹿げた儀式が残っているようであるが、それが今日では単に国粋保存というような意味ばかりでなく、つまり、常に常識的であるための「非常識デー」として存在の価値を保っているらしく私には思・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これは×××大将の方からも、入費が出たそうで……その骨揚の日には、私も寄ばれましたっけが、忰の筺の品を二品ほしいと仰ゃるんで、上等兵になった時の写真を二枚持ってまいりましたがね、その時の儀式と云うものが大変なもんでした。 ××大将は戦地・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・けれども学士会院がその発見者に比較的の位置を与える工夫を講じないで、徒らに表彰の儀式を祭典の如く見せしむるため被賞者に絶対の優越権を与えるかの如き挙に出でたのは、思慮の周密と弁別の細緻を標榜する学者の所置としては、余の提供にかかる不公平の非・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・始めから儀式ばらぬようにとの注意ではあったが、あまり失礼に当ってはと思って、余は白い襯衣と白い襟と紺の着物を着ていた。君が正装をしているのに私はこんな服でと先生が最前云われた時、正装の二字を痛み入るばかりであったが、なるほど洗い立ての白いも・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・是れも所謂言葉の采配、又売物の掛直同様にして、斯くまでに厳しく警めたらば少しは注意する者もあらんなど、浅墓なる教訓なれば夫れまでのことなれども、真実真面目に古礼を守らしめんとするに於ては、唯表向の儀式のみに止まりて裏面に却て大なる不都合を生・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・父母に非ざる者を父母とし、娘に非ざる者を娘とすることは叶わずして、是に於てか相互の交際は、万事に就き心の底より出でずして、動もすれば表面の儀式に止まること多し。仮令い或は其一方が真実打解けて親まんとするも、先方の心に何か含む所あるか、又は含・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・日本国民既に耶蘇教に入りたる者あり、なお未だ入らざる者ありといえども、その入ると入らざるとはただ宗教上の儀式にして、日本帝国決して不徳の国にあらず、耶蘇教国独り徳国にあらず、いやしくも数千年の国を成して人事の秩序を明らかにし、以て東海に独立・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫