・・・新規開店に先立ち、法善寺境内の正弁丹吾亭や道頓堀のたこ梅をはじめ、行き当りばったりに関東煮屋の暖簾をくぐって、味加減や銚子の中身の工合、商売のやり口などを調べた。関東煮屋をやると聴いて種吉は、「海老でも烏賊でも天婦羅ならわいに任しとくなはれ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 犬はかれに先立ちて街を駆けのぼり早くかなたにありて青年を待てり。登りつむればここは高台の見晴らし広く大空澄み渡る日は遠方の山影鮮やかに、国境を限る山脈林の上を走りて見えつ隠れつす、冬の朝、霜寒きころ、銀の鎖の末は幽なる空に消えゆく雪の・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・ 婦は我らを一目見て直ちに鎌を捨て、蝋燭、鍵などを主人の尼より受け取り、いざ来玉えと先立ちて行く。後に従いて先に見たる窟の口に到れば、女先ず鎖を開き燭を点して、よく心し玉えなどいい捨てて入る。背をかがめ身を窄めでは入ること叶わざるまで口・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・心緒無レ美女は、心騒敷眼恐敷見出して、人を怒り言葉※て人に先立ち、人を恨嫉み、我身に誇り、人を謗り笑ひ、我人に勝貌なるは、皆女の道に違るなり。女は只和に随ひて貞信に情ふかく静なるを淑とす。 冒頭第一、女は容よりも心の勝れたるを善・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 然るところ寛永十八年妙解院殿存じ寄らざる御病気にて、御父上に先立ち、御逝去遊ばされ、肥後守殿の御代と相成り候。ついで正保二年松向寺殿も御逝去遊ばされ、これより先き寛永十三年には、同じ香木の本末を分けて珍重なされ候仙台中納言殿さえ、少林・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫