・・・全く大なる光栄と心得てここへ出て来たのである。が繰返して云う通り、演説はできず講義としては纏まらず、定めて聞苦しい事もあるだろうと思います。その辺はあらかじめ御容赦を願います。 まずこれからそろそろやり始めます。やり始めますよと断ると何・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・特務曹長「然るに私共は未だ不幸にしてその機会を得ず充分適格に閣下の勲章を拝見するの光栄を所有しなかったのであります。」大将「それはそうじゃ、今までは忙がしかったじゃからな。」特務曹長「閣下。この機会をもちまして私共一同にとくとお・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・だから一向反対宣伝も要らなければこの軽業テントの中に入って異教席というこの光栄ある場所に私が数時間窮屈をする必要もない。然しながら実は私は六月からこちらへ避暑に来て居りました。そしてこの大祭にぶっつかったのですから職業柄私の方ではほんの余興・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そして、それを表現する芸術こそ、地球上の他のあらゆる生きものの動物性から人間を区別する光栄ある能力であり、その成果によって私たちははじめて生きてゆく自分たちの姿を客観し得るのである。そういう文学の砦として『新日本文学』は創刊されようとしてい・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・こそ、わたしたちのたたかいのうた、光栄のうただと思います。ほんとにわたしたちは、「われつねに一本の鉛筆を懐中す」その鉛筆のしんは決して折られてはいないのだ、と思って、一本の鉛筆さえとりあげられるような生活を生き貫いて来たのですから。これから・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・彼等灰色の人々に光栄あれ。 フランスの知識人は「政治」と「政変」とに飽きて、「政治」について妙に観念化された。 それがそこから離別することが人間的誠実とは思われる習慣となり、やがて悪癖となった。 バルザックが、たとえ混乱を被いが・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・己の喜ぶべき事だろうか。己の光栄だろうか。己はその光栄を担ってどうする。それがなんになる。己の感情は己の感情である。己の思想も己の思想である。天下に一人のそれを理解してくれる人がなくたって、己はそれに安んじなくてはならない。それに安んじて恬・・・ 森鴎外 「余興」
・・・彼の目にふれるのは偶像の光栄に浴し偶像の力に充たされたと迷信する愚昧な民衆の歓酔である。彼らは鐃や手銅鼓や女夫笛の騒々しい響きに合わせて、淫らな乱暴な踊りを踊っている。そうしてその肉感的な陶酔を神への奉仕であると信じている。さらにはなはだし・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・そうして一般民衆は現戦争の罪が敵味方共通のある種の資本家やユンケル連にあることを正直に認め、人類の光栄のためにこの種の階級に対して神聖な戦いを宣するだろう。そうなると今対峙している敵味方の間の勝敗などは、どうでもよくなってしまう。今までの軍・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・ただ願わくばこの悪潮流が光栄ある四綱領を汚さざらん事を望むのである。 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫