・・・のみならずこれからやる中味と形式という問題が今申した通りあまり乾燥して光沢気の乏しいみだしなのでことさら懸念をいたします。が言訳はこのくらいでたくさんでしょうからそろそろ先へ進みましょう。 私は家に子供がたくさんおります。女が五人に男が・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・貯えた蜜柑の皮に光沢があって、皮と肉との間に空虚のあるやつは中の肉の乾びておることが多い。皮がしなびて皺がよっているようなやつは必ず汁が多くて旨い。○くだものの嗜好 菓物は淡泊なものであるから普通に嫌いという人は少ないが、日本人ではバナ・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・このチンノレイヤという花は紫のようで少し赤みがあって、光沢があって、どうしてもその色をまねることが出来なかった。この一枚もかくの如くしてまた書き塞げてしもうたので、例の通り賛を加えた。その歌は、おだまきの花には桐ノ舎ガ妻ヲ迎ヘシ三年前カ・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・武者小路実篤氏の独特な文体は、『白樺』へ作品がのりはじめた頃から既に三十年来読者にとって馴染ふかいものであり、しかもこの頃は、一方で益々単純化されて来ているとともに練れて光沢を帯びたようなところが出来ている。そのような文章で描き出されている・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・作者のレーニン的世界観の統一、政治的鍛練によって、自らそなわって来た独特の簡明さ、迫真力、革命的気宇の大さが、作品の深い光沢となってかがやき出そうとしている。主題の把握においても、敢然と多数者獲得の課題に応え得ている。 同志小林は「組織・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・ 意外にも安寿の顔からは喜びの色が消えなかった。「ほんにそうじゃ。柴苅りに往くからは、わたしも男じゃ。どうぞこの鎌で切って下さいまし」安寿は奴頭の前に項を伸ばした。 光沢のある、長い安寿の髪が、鋭い鎌の一掻きにさっくり切れた。・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ 或る日、ナポレオンは侍医を密かに呼ぶと、古い太鼓の皮のように光沢の消えた腹を出した。侍医は彼の傍へ、恭謙な禿頭を近寄せて呟いた。「Trichophycia, Eczema, Marginatum.」 彼は頭を傾け変えるとボナパ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・良え光沢やろが。汚点が惜しいことにちょっと附いてるのでな。」 お霜は差し出された丸帯を見向きもせず、「いまに思いしらせてやるわ、覚えてよ。」とまた云った。 秋三は「帰ね帰ね」と云うとそのまま奥庭の方へ行きかけた。「何を云うの・・・ 横光利一 「南北」
・・・荒いザラザラした表面と、細かいスベスベした、あるいは滑らかに光沢ある表面。 これらの相違がすでに洋画を写実に向かわしめ、日本画を暗示的な想念描写に赴かしめるのではないのか。 たとえば、日本画においては、ある一つの色で広い画面をムラな・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・黄いろい乾いた光沢なども、カンバスの上に油をもってしては、こうは現わせない。この画家の注意深い対象選択は確かに成功であった。また日本絵の具の性質をいかに活用すべきかもここに暗示せられている。が、こう思いながらも、さらに遠のいて観察すると、画・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫