・・・しかしコリントゲームの方には公算的統計的の要素が入り込む。前者では因果の連鎖が一筋の糸でつづいているが、後者では因果の中間に蓋然の霧がかかっている。それで、前者では練習さえ積めばかなりの程度までは思いのままにあらゆる有様を再現することが出来・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・すなわちカメラの任意な移動によって観客は空間内を自由に移動し、従って観客自身画面の中へ入り込むと同等な効果を生ずるからである。 このようにカメラの焦点とその位置および視角の移動によって現在の映画は、事実上、少なくも心理的には立体的実体的・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・映画の場合でも、官能の窓から入り込む生理的刺激が一度心理的に翻訳された後にさらにそれが生理的に反応する例も少なくないようである。最も卑近な例をあげると、スクリーンの上にコーヒーを飲む場面が映写されるのを見て急に自分もコーヒーが飲みたくなるよ・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・最初の問題のつかみ方、計算の途中に入り込む仮定や省略のしかたによって少しずついろいろ違った結論に達する。しかもそれらの各種の論文は互いに相鼎立して、どちらも、それ自身としては正当でありうるのである。ただそれらの間の優劣を区別する場合の目標は・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・価値のあるものなら通過し、ないものは通過しないと決まっているのなら、私利私情などというものの入り込む余地はないではないかということになる。正にその通りである。それだのに実際上は事柄がその通り簡単にゆかないのは何故かというと、それは論文の「価・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・不安定の入り込む多くの場合には事がらが統計的になるので従来の物理学からはとかく疎外されがちであった。通例こういう場合には「事がらが再起的 reproducible でないから」という口実で、惜しげもなく放棄されて来たのである。なるほど従来の・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・この意味でまた日本各地の民謡などもこのいわゆるオルフィズムの圏内に入り込むものであるかもしれない。 詩形が短い、言葉数の少ない結果としてその中に含まれた言葉の感覚の強度が強められる。同時にその言葉の内容が特殊な分化と限定を受ける。その分・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・次に太陽や燈火の光が海中に入り込む程度は漁業上重要な問題であるが、これを要するに光学上の問題に帰着する。上層と下層における魚類の色を自然淘汰によって説明した動物学者があるが、その基礎とするところは海中における光の吸収の研究である。また海岸の・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・ 芸術の成立するのは、云わば個々の能知者が所知者の中に入り込む時に始まる。あるいはまた所知者が能知者を反映する事によって可能である。しかしまだそれだけでは美的芸術の水平線に達する事は出来ない。能知者と所知者の結合を包括する全体が更に大き・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・今日は何れの国家民族も単に自己自身によって存在することはできぬ、世界との密接なる関係に入り込むことなくして、否、全世界に於て自己自身の位置を占めることなくして、生きることはできぬ。世界は単なる外でない。斯く今日世界が実在的であると云うことが・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
出典:青空文庫