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・・・「はははは、さぞ御感に入りなされたろう、軍が終ッて。身に疵をば負いなされたか」「四カ所負いたがいずれも薄手であッた。とてもあのような乱軍の中では無疵であろう者はおじゃらぬ。もちろん原で戦うのじゃから、敵も味方もその時は大抵騎馬であッ・・・
山田美妙
「武蔵野」
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・・・ こういう仕方でやがて夏になり、野萩の咲くころとなり、秋に入り、雪を迎え、新年になる。遅い山国の春にも紅梅が咲き、雪が解け、やがて猫やなぎがほほけ、つくしがのび、再び蓮華草の田がすきかえされ、初雷の聞こえるころになる。その間の数多い歌が・・・
和辻哲郎
「歌集『涌井』を読む」