一 君が大学を出てそれから故郷の仙台の部隊に入営したのは、あれは太平洋戦争のはじまった翌年、昭和十七年の春ではなかったかしら。それから一年経って、昭和十八年の早春に、アス五ジ ウエノツクという君からの・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・自分の忰を賞めるのは可笑しうがすけれど、出来たにゃ出来た。入営中の勉強っていうものが大したもんで、尤も破格の昇進もしました。それがお前さん、動員令が下って、出発の準備が悉皆調った時分に、秋山大尉を助けるために河へ入って、死んじゃったような訳・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・清二は遠方の連隊に入営した。働きてが一人減った。――しかしまあよい。同時に食う口も一つ減ったのだから。が、余りよくないことが、案外なところに潜んでいたのを、先ずおしまが発見し始めました。学問こそないが、おしまも女である以上、妙に鋭い、思い込・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・一、赤軍に入営した後の家族の世話も集団農場がする。一、仕事の割当によって賃銀を払われる。収穫物の取引は集団農場と国営の生産組合とが直接やるのであるから、だまされる心配をする必要がない。 その他に便利は沢山ある。 集団農場には・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・ 一月○日 十日に入営する隆ちゃんより来信。点呼のとき青年団員が復唱するような勇壮な調子で入営について書いてあり、又ほのかな思い出を家にのこしてとても優しく書いてあったり。姉上の御全快と御幸福をおいのりいたします。そして最後に「・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・ あなたに申し上げるのを忘れましたが、この間達治さんが広島へ入営したとき、私がお送りした御餞別の僅かな金で、黄色いメリンスの幟をおつくりになりました由。その手紙をお母様からいただき、私はいろいろ感服いたしました。 私の机の上に一寸想・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 達治さん[自注11]がこの一月二十日頃に入営することを叔父上がお話しになりましたか? その前に出来たらあなたに会われたらいいと思ったし母様の御出京の話もあったので、とりいそいで家をもったわけでした。あなたは御存知ないことだけれども、一・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ソヴェト・ロシアの兵士は、ソヴェトに選挙された時、二種の委員をかねる権利を与えられている。入営まで職についていれば除隊後新たに就職するまで失業手当を支給される。親が例えば選挙権をもたないでも息子が赤衛兵ならば集団農場に加入を許される。 ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・特に合理的なのは、除隊兵が若し入営まで労働者だったとすると、除隊後職業を見つけるまで生活保証を受ける。また労働者のためには特に「休息の家」があって、ソヴェトの生産別職業組合は「休息の家」へ二週間から一ヵ月、労働者を送って休養させる。 そ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
出典:青空文庫